sharp honhai 4253018032020TJ1001-PN1-2シャープの親会社である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業で、シャープの存在感が後退している。シャープの技術を使って米中に巨大な液晶パネル工場を新設する計画を打ち出したが、事業環境の悪化でトーンダウンしている。代わって成長のけん引役に浮上してきたのは電気自動車(EV)など、シャープがゆかりのない分野だ。

3月3日、鴻海の劉揚偉董事長(会長)が電話を通じた緊急の業績説明会を開いた。中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、スマートフォン「iPhone」などを作る鴻海の主力工場も停止を余儀なくされていた。3月末までには生産を正常化できるとの見通しを示したのに続いて劉氏が示した成長戦略は「EVで破壊的イノベーションを起こす」だった。

鴻海は欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と中国でEVを生産すべく、合弁会社の設立協議も進めており、本気度がにじむ。





ただ、劉氏の発言を聞いたシャープのある幹部はつぶやいた。「EVで相乗効果を出せる部分はあまりないんだよな」

2016年のシャープ買収は、鴻海創業者で当時トップを務めていた郭台銘(テリー・ゴウ)氏が決めた。世界最大の受託製造サービス(EMS)企業にはなったが、主力工場がある中国で人件費が高騰。付加価値の低さを労働集約による規模のメリットで補うモデルが限界を迎えていた。

赤字のシャープを買収することに対し鴻海社内には慎重論もあったが、郭氏は「シャープの高い技術と匠(たくみ)の精神を取り込む」「第二の創業につなげる」として押し切った。

郭氏が最も期待したのが、かつて世界一とうたわれた液晶パネル技術だ。買収から4カ月後の16年末、中国・広州に約1兆円を投じて液晶パネル工場を新設する計画を明らかにした。シャープが堺工場(堺市)を分社して生まれた堺ディスプレイプロダクト(SDP)の子会社化も同時に発表した。

17年に「製造業の米国回帰」を掲げるトランプ大統領が就任すると、今度は米中西部ウィスコンシン州で100億ドル(約1兆500億円)を投じて液晶パネル工場を建設すると表明した。

だが2つの計画はいずれも難航している。17年末から中国勢の増産攻勢で液晶パネル価格が下落し、事業環境は急激に悪化した。世界最大級のガラス基板を使い、効率的に大型パネルを作るSDPの優位性も薄まった。中国の液晶パネル最大手、京東方科技集団(BOE)が同水準の新工場を稼働させたからだ。

広州工場は稼働したが本格量産は遅らせている。米国では工場の規模を当初計画より縮小し、研究開発センターなど多彩な設備を造る構想に切り替わっている。投資額は圧縮されそうだ。

「鴻海にパネル事業はない」。米中パネル事業の不調が報じられるたび、鴻海は声明を出してきた。広州工場の建設主体は鴻海ではなく郭氏の投資会社傘下のSDPであることを主張するものだ。

その郭氏も20年1月の台湾総統選への出馬表明を機にSDPの持ち分を手放した。総統選後に経営に復帰すると、巨大ファンドを新設して新たな投資先を探すと表明した。シャープ買収当時の熱は感じられない。シャープ会長兼社長で鴻海の取締役も兼務する戴正呉氏は、鴻海にとってシャープの重要性は変わらないと主張するが、ある鴻海幹部は「シャープの生かし方が定まらない」と明かす。

シャープは鴻海流のコスト構造改革で業績が復調したが、足元の株価は17年3月の高値に比べて約8割低い。買収前の16年8月以来の安値圏だ。鴻海も業績停滞などで17年8月の高値の半値以下に下落し、株価変動は相似形を描いてきた。

「シャープは私に任されている」と話す戴氏は21年度末で退任すると表明している。「守護者」が去った後のシャープを鴻海がどう扱うのかは不透明だ。独自の技術やノウハウを生かした新事業を早期に軌道に乗せ、鴻海を納得させる相乗効果を示す必要がある。

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