foxconn 20FFJ001-PN1-2半導体と電子機器の受託製造サービス(EMS)の2本柱で成長してきた台湾のハイテク産業が転機を迎えている。長年、台湾勢が独占した米アップルのスマートフォン「iPhone」の生産に、来年から初めて中国企業が参入する見通しとなった。

半導体でも中国勢の追い上げが続く。中国に一大産業を奪われる、台湾の焦りが強まっている。 「中国の立訊精密工業(ラックスシェア)、台湾の緯創資通(ウィストロン)の中国の一部工場を138億台湾ドル(約500億円)で買収へ」 17日夕、中国本土からニュースが飛び込むと、台湾の市場関係者やメディアは慌てた。

ラックスシェアは中国新興のEMS。米アップルの人気ワイヤレスイヤホン「AirPods(エアーポッズ)」を2017年から受託生産し、勢いに乗る。





一方、ウィストロンは鴻海(ホンハイ)精密工業、和碩聯合科技(ペガトロン)と並び台湾を代表するEMSだ。特にiPhoneの生産は3社で分け合ってきた。

その独占に突如、終止符が打たれるニュースに衝撃が走った。ウィストロンが売却する中国工場はiPhoneの生産を手掛ける。ラックスシェアは買収により念願のiPhone生産参入を果たし、台湾企業以外で初めてこの分野に切り込む。工場買収は年末までに完了し、来年からiPhoneの組み立て生産を始める見込みだ。

「ホンハイの郭台銘(テリー・ゴウ)の危機感は相当なものだろう」。台湾メディアも衝撃をこう書き立てた。

ラックスシェアはかねて、アップル製品の中でも本丸の「iPhone組み立ての受託生産」を狙っていた。狙いを定めたのが、中国江蘇省に拠点を置くウィストロンの工場だった。この工場はiPhoneの組み立てを手掛けるが、356億台湾ドル(約1300億円)もの累積赤字を抱え経営に苦しんでいた。ウィストロンはやむを得ず工場を手放し、採算重視の道を選び、晴れて契約が成立するに至った。

こうした話は、当事者間だけで進む話ではない。業界では「アップルの後押しがある」とみられている。iPhoneの廉価版「SE」の好調で、来年以降はさらに安い新モデルの投入も噂される。従来のような台湾EMSによる独占状態では「コストダウンは見込めず、低価格モデルを成功に導くことは困難だ」(業界関係者)。

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アップルの思いは自然に、中国企業のEMS参入による新陳代謝に向かったようだ。実際、17年にはティム・クック最高経営責任者(CEO)自ら、当時はまだ無名のラックスシェアの中国工場を訪問し「超一流の工場だ」と称賛し、高い期待を寄せた。

ラックスシェアはさらに、現在ペガトロン傘下の有力企業にも買収を仕掛けているとされ、今後流れが一気に強まる可能性もある。EMS業界で、台湾は世界に冠たる地位を確立し、上位5社だけでも年間の受託生産額は35兆円に及ぶ巨大産業だ。それだけに中国勢の台頭は食い止めたいものの、台湾勢の弱みも浮き彫りになりつつある。

台湾企業の工場の多くは中国本土にある。「世界の工場」といわれ、中国でその礎を築いたのは1990年代に大挙して進出した多くの台湾企業だった。その数、10万社近くにのぼる。筆頭がホンハイで、中国で100万人近くもの雇用を生み出した。

中国政府は進出の見返りに、台湾企業に所得税減免など数々の優遇策を用意し、20~30年の単位で与え続けた。その期限が今、台湾企業の各工場で切れ、中国の人件費の高騰も加わり、かつての優位性が保てない危機に直面する。ウィストロンの中国工場も例外ではない。中国政府は14年、地方政府に外資への優遇策を設けないよう通達し、方針転換も鮮明にした。

一方、ライバルの中国企業に対しては、中国政府は上場企業に年間2兆円以上もの補助金を出すなど支援を手厚くする戦略に出た。「政府補助金が今の中国企業の強みだ。ラックスシェアも1~2年後には『iPhone』の中位機種をうまく生産できるようになる」。業界に詳しい台湾の大手証券首脳は危機感を募らせる。

米中摩擦でも度々、論争になる中国の政府補助金はやはり脅威だ。台湾企業への効果的なボディーブローとなる。

台湾からはこれまで半導体や液晶パネルの先端技術が、資金力のある中国企業に渡った。そんな焦燥感が今、台湾EMS各社をかつてない衝動に駆り立てる。

ウィストロンは22日夕、ラックスシェア株を約450億円分取得し、今後は両社で関係を深めると発表。その直後にペガトロンもラックスシェア株を約90億円分取得すると発表し、再び台湾市場に衝撃が走った。まだ新興の中国企業にさえあらがえず、早くも共同戦線を張り、現実路線を選んだとの見方も浮上する。

台湾のライバル2社を圧倒する首位ホンハイに、これまで動きはない。世界のモノの受注を巡る中台の争いは、中国勢優位にも見える形で、新たなステージに突入した。

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