中小型液晶シェア_20I00001-PN1-2シャープが経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)から白山工場(石川県白山市)の土地と建物を412億円で買収する。同工場の設備を取得する米アップルの意向を受けた共同買収となる。売上高の2割超を占めるアップルの戦略を見極め、JDIの重荷となっていた白山工場を再建できるか。日本企業が育てた液晶パネル事業は大きな転換点を迎える。

シャープは10月までに白山工場の土地・建物を取得する。アップルが取得した設備を借り受けて生産を再開し、iPhone向けの液晶パネルを供給する。シャープとJDIが開示したリリースには「アップル」の文言は見当たらず「顧客」とあるだけ。だが今回の交渉で、陰の主役を演じたのはアップルだった。





アップルはスマホの有機ELの採用比率を高める見通しだが、足元では液晶パネルを使う「iPhone SE」の販売好調で廉価版機種の需要は根強い。今後も当面は液晶パネルを採用した機種が残るもよう。だがシャープ、JDI同様にスマホ向け液晶パネルを手がける韓国LGディスプレーは事業縮小の可能性が指摘される。アップルは経営再建中のJDIから白山工場を切り離してシャープに任せることで、液晶パネルの安定調達につなげたい考えとみられる。シャープはかねて工場買収について「顧客の要請があった」(野村勝明社長)としてきた。

アップルから請われた形のシャープも白山工場を長期戦略に必要な一手と位置づける。iPhone向けパネル生産を白山工場に一本化し、稼働率向上により収益改善を図るもよう。これまでアップル向け液晶パネル生産を担ってきた亀山第1工場(三重県亀山市)に生産余力を確保し、自動車分野などのスマホ以外の新分野の開拓を進める。これまでは生産したパネルを優先的にアップルに供給する義務があったとされる。

シャープは「液晶の次」も見据える。亀山や三重工場(三重県多気町)といった既存拠点に白山工場が加わることで生産能力を確保でき、既存工場の稼働を維持しつつ次世代パネルの立ち上げ準備も進められる。同社では次世代液晶として微細な発光ダイオード(LED)で画像を表示する「マイクロLED」や色彩表現に優れる「QLED」などの研究開発を進めている。

10月にディスプレー事業を分社化するのも、他社からの資金注入を容易にして、数千億円単位になる実用化までの費用をまかなうためだ。液晶の需要を奪いつつある有機ELのさらに先を見据え、スマホの将来像を見極めて投資につなげたい考えだ。戴正呉会長は28日、「生産能力拡充や次世代ディスプレーへの展開といった面で、当社のパネル事業にとってプラスになると確信している」とのコメントを発表した。

戴会長はかねて、シャープは「ブランドの会社になる」と話してきた。ディスプレーに続きカメラモジュール事業も分社化し、本体に残すのは家電などブランド力が重視される事業が中心となる。それでも収益への影響度が大きい屋台骨はディスプレー事業だ。次世代技術への移行期だからこそ、収益の安定が成長の基盤になる。

一方、JDIにとっても白山工場の売却は経営再建に欠かせないピースだ。同工場の建設時にアップルが「前受け金」をJDIに支払い、約1700億円の投資の大半を負担した。だがスマホのパネルの有機ELシフトなどが響き、19年7月から生産を停止していた。JDIには前受け金の返済のみが残った。

設備も含む713億円分の白山工場の売却で、前受け金をほぼ弁済できる。事業継続性に対する顧客やサプライヤー(供給元)の不安が薄まり、不利な条件で結んだ取引を正常化できるとみる。菊岡稔社長は28日、「経営再建の重要なマイルストーンの一つをようやく最終決着できた」とコメントした。

JDIはスマホ向けに依存してきた収益体質も改める。26日の株主総会でスマホ向け以外の製品比率を5割に高める方針を示した。タッチパネルの技術で培ったセンサー技術を生かし、ヘルスケア分野などを開拓する。

シャープ、JDI、アップル――三者三様の思惑が入り交じり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響も受けて1年近くの交渉となった。この間にもスマホの有機EL化が進み、液晶の事業環境は大きく変化している。液晶市場を席巻する海外勢との競争の中で、日本勢がどう生き残りを図るのか。残された時間は長くはない。

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