中国の大手FPDメーカーChina Star Optoelectronics Technology(CSOT)の親会社である家電メーカーTCLテクノロジーグループが、中国の蘇州にあるSamsung Displayの資産を取得する契約を結んだことを発表したとディスプレイ市場調査会社Display Supply Chain Consultants(DSCC)が市場分析を交えて伝えている。

同契約に基づき、TCL/CSOTはSamsungに10億ドル以上を支払う予定であるが、その大部分はSamsungがTCLの子会社に株式投資の形で還元され、Samsung DisplayはTCL子会社の少数株主になるという。

中国勢の躍進で利益率が低くなった液晶ディスプレイ(LCD)市場から撤退し量子ドット(QD)技術を活用することで画面の色性能を向上させる、高付加価値の有機EL「QD-OLED」パネルに集中するSamsungグループの戦略の一環であるという。





SamsungがTCL子会社に再投資する背景には、「TCLとの戦略的な協力関係を構築していくため」であるとか「売却した工場がスムーズに再稼働できるように技術サポートなどの協力をするため」といった動きがあるとするSamsung関係者の話を中韓メディアが報じている。

今回の取引によりCSOTは、Samsung Displayの中国工場 の60%の株式を取得し、TCLが10%、残りの30%を蘇州工業団地国有資産保有開発が所有することになるという。

Samsung Displayの売却額は10億8000万ドルとされるが、同時にSamsung DisplayはTCL子会社のTCL Huaxingの株式を購入するために7億3900万ドルを支払う契約も交わしたとされる。TCL Huaxingは、深センでCSOTの第8.5世代(G8.5)および第10.5世代(G10.5)ファブ(TCLはこれらをGen 11と呼んでいるが、DSCCはGen 10.5と認識しているという)を含む大規模なディスプレイファブを保有する子会社である。

売却で得られる10億8000万ドルのうち、第8.5世代ファブへの支払いが7億3900万ドルとされており、これはTCL HuaxingにおけるSamsungの増資に対応した額であり、残りの3億4100万ドルがTCLからSamsungへの現金で支払われる予定だという。

これによりSamsung DisplayはTCL Huaxingの株式12.33%を保有することとなるほか、TCL Huaxingの取締役会にオブザーバーを置く権利が与えられるという。TCL Huaxingの過半数の所有権(80.28%)はTCL Technologyに残り、中国開発銀行開発基金と広東粵財(Yuecai)信託が小株を保有するという。

TCLは、「業界の統合によりディスプレイ業界の循環的なボラティリティが低下し、大手企業のメリットが増加すると予想している。この買収後、TCL Huaxingは3つのフルプロダクションG8.5ラインを持ち、毎月の生産数は合計44万枚となる。月産9万枚のG11ラインも1つあり、別のG11ファブも建設中である」と述べている。また、「Samsung DisplayをTCL Huaxingの株主として迎え入れることにより、TCL/Samsung両グループの戦略的協力を深める。Samsungは常にTCL Huaxingの大中小型LCD製品の重要な顧客だった。取引が完了した後も、双方はより緊密な戦略的協力を実施する」と述べたとDSCCは伝えている。

Samsung Electrnicsのビジュアルディスプレイ部門はひき続きLCDを用いた最終製品の販売を行う見込みで。Samsung DispalyがLCDビジネスから撤退すると、CSOTはグローバルTVブランドトップ2社の主要サプライヤになるとDSCCは見ている。

TCLによると、この取引は依然として中国と韓国の両方の規制当局による承認が必要であると述べているが、これは買収の障壁にならないとDSCCはみている。

今回の買収と今後予測される複数の中CEC Pandaの保有するLCDファブのChina Starによる買収の結果、China Starは、特に大面積LCDにおいて、BOEに対して強力な競争相手になるとDSCCは分析している。BOEとChina Starはそれぞれ、LCD市場の少なくともシェア20%を確保することとなり、2021年には2社合わせて42%~44%程度のLCD生産シェアとなり、CSOTと首位BOEとのギャップが狭まることになりそうである。G7+として定義された第7世代以上の大面積LCDで比較すると、China Starは首位との差を1~2%程度まで縮め、トップ2社で少なくとも2022年以降、50%のシェアを有することになるとDSCCは見ている。

Samsung Displayは、「脱LCD」に向け、次世代ディスプレイとして注目を集めているQD(量子ドット)OLEDへの事業転換の急速に進めている。2019年秋にはQD-OLED向けに13.1兆ウォンの投資計画を掲げ、設備の搬入を開始、2020年下半期中に生産ラインのセットアップを終える予定である。生産ラインは2021年より段階的に稼働を始める見込みで、QD-OLED製品の生産を本格的に開始する計画となっている。

LCDの生産拠点は、日本から韓国へ、そしてついに中国へと移って行った。最後発の中国メーカーの低価格物量攻勢により、日本も韓国も価格競争力が低下して撤退に追い込まれた。韓国勢は、ハイエンドOLEDに賭けるが、この分野でも徐々に実力をつけてきた中国勢の侵攻が始まっており、Samsungは生き残りをかけてOLEDの中でも難易度の高いQD-OLEDで勝負に出る。Samsung Displayは、すでに評価用パネルを親会社のSamsung Electronicsだけではなく、日本のテレビメーカーにも提供したと伝えられている。

韓国政府は、韓国半導体産業の主要製品である半導体メモリも、LCDと同じように中国勢に市場を奪われることを恐れて、非メモリへの転換戦略をうちだし、さまざまなシステムLSIに対する強化策を実施している。

※記事の出典元はツイッターで確認できます⇒コチラ