積水化学工業の男性元社員(45)が自社技術の機密情報を中国企業に漏洩したとして、大阪府警が不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で書類送検した事件で、元社員が、社内調査で不正が発覚し2019年5月に積水化学で懲戒解雇された後、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に再就職していたことが日経ビジネスの取材でわかった。元社員はファーウェイの技術部門に所属。ファーウェイ日本法人側は、「その社員が入社する際、積水化学で懲戒解雇された事実を知らされなかった」と話している。元社員は10月16日に退社したという。

 同事件は、元社員が積水化学に研究職として在籍していた2018年8月~2019年1月に、スマートフォンのタッチパネルなどに使われる「導電性微粒子」と呼ぶ電子材料の製造工程に関する機密情報を中国企業の社員にメールで2回送信した容疑がもたれている。導電性微粒子は、画面にタッチした指の動きをスマホに伝える役割を果たす、高度な技術が使われた材料で、積水化学が世界シェアトップを握る。





 元社員のパソコン画面を見て不信感を抱いた同僚が会社に報告。社内調査の結果、不正が発覚し、積水化学が2019年5月に元社員を懲戒解雇していた。同年秋、同社からの告訴状を受けて、大阪府警が捜査を開始。今月13日に元社員を書類送検した。「いけないことだと分かっていたがやってしまった」などと全面的に容疑を認めていることから、大阪府警は逮捕を見送った。

 中国企業へ情報漏洩をしたとして懲戒解雇された元社員が数カ月も経過しないうちに再就職をした先は、同じ中国企業である通信機器大手ファーウェイだった。積水化学で研究職に就いていた元社員は、ファーウェイで技術部門に所属し、大阪市北区にある同社大阪研究所に勤務していたようだ。元社員は入社時、前職で懲戒解雇された事実をファーウェイに伝えていなかった。

 ファーウェイ日本法人は「書類送検されたことを本人から聞かされなかった。(記者からの)指摘を受け、初めてそのことを知った」としている。同社は16日までに、書類送検を受け、「事実関係を確認し次第、厳正に対処する」と話していた。ところが、17日になって、前日の16日にすでに元社員が退社したと説明。退社理由については明かさず、ファーウェイが処分を下したかどうかについてもコメントを控えるとした。

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 関係者によると、元社員が積水化学在籍時に情報を漏洩したとされる中国企業は広東省に本社がある通信機器部品メーカー「潮州三環グループ」。潮州三環の社員が、ビジネス向けSNS「リンクトイン」で積水化学の元社員の経歴や勤務先を見てメッセージを送信したことで、やりとりが始まった。積水化学の元社員は中国にいる潮州三環の社員を複数回にわたって訪問した。

 訪中して対面による挨拶を交わしたことで信頼関係を構築できたと考えた元社員は、互いが持っている技術情報を交換し合うことで潮州三環の社員と意見が一致。帰国後、積水化学の元社員は、会社に持ち込んだ私用パソコンを使って潮州三環の社員に2回、メールを送信した。2回目は、私物のUSBメモリーを会社のパソコンに差して情報を抜き出し、私用パソコンから情報を送った。ただ、情報を渡したのは積水化学の元社員だけで、潮州三環の社員から情報が提供されることはなかった。

 「潮州三環の社員が持っている技術は、積水化学にはない技術。この技術を自分が手にすれば、社内で高く評価されると思った」。元社員はそんな功名心から情報漏洩をするに至ったようだ。潮州三環の社員が、謙虚な姿勢で「技術指導をしてほしい」と依頼してきたことも元社員の心を動かした。漏洩の対価としての金銭の授受はなかったとみられるが、元社員が訪中する際の交通費や宿泊費は潮州三環の社員が負担。元社員が欲しがっていた技術を、潮州三環が本当に持っていたかどうかは不明だ。

 近年、特に海外企業への機密情報の流出例が増加していることを受け、経済産業省は2015年に不正競争防止法を改正。個人が機密情報を流した場合、相手が国内企業なら2000万円以下、海外企業なら3000万円以下の罰金を科し、海外への漏洩についてより重い刑罰をかける内容に変更した。それでも、今回のような、社員による勤務先企業の機密情報の流出事例は後を絶たず、企業に対して強固な情報管理や危機意識が求められている。

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