203X年、阿部さん(仮名)にとってクルマは自分を開放できる異次元の空間だ。

土曜日の昼下がり。妻と息子は一緒に出かけて自宅にはひとり。金融機関に勤める30代後半の阿部さんは、のそのそと玄関を出てクルマに乗り込む。ぼぉーっとしていた顔から一転、クルマを始動させるとギラギラした顔つきになる。家族に見せる「優しい父さん」でも、職場での「そこそこできるサラリーマン」でもない。
すべての車窓が黒く光り、車内は次第に暗くなる。フロントウインドーに見えていた坪庭のツツジも見えなくなる。漆黒の空間には、徐々に星々が瞬きはじめる。宇宙だ。前面にゲームロゴが浮かび上がる。クルマのハンドルはいつのまにか戦闘機の操縦桿に変わっている。星雲間のワープを本能的に感じ取れるような、ドップラー効果を伴う轟音が鳴り響く。戦闘開始。






車内でのコンテンツの充実は、3つの領域の技術進化で一気に加速する。一つめは通信環境、二つめはHMI(ヒューマンマシンインターフェース)、三つめはバイタルセンシングだ。
■すべての車窓が「ディスプレー」に変わっていく
通信環境は5Gになる。実効速度で下り1Gbpsとなり、100インチのディスプレー4枚分の4K映像を楽々ストリーミングできるようになる。たとえばAGCはガラス埋め込み型アンテナを開発している。こうした技術を用いれば、自動車はそれ自体が基地局として5G環境に置かれると考えられる(※1)。 HMIは五感を刺激する機能を指す。今後は特に視覚面の進化が著しく、すべての車窓がディスプレーになる。有望な手段のひとつが、ガラスの中間膜に液晶を挟み込む方法だ。JDIの液晶技術による現状の透過率は87%で、ガラスだけの一般的な透過率92%と遜色ない水準にある。タッチパネル機能も搭載でき、画素数も1440(H)×540(V)とハイビジョンテレビに近い。ガラス自体の性能を変えないため、強度や飛散防止性などの面でも自動車への搭載に障害は少ない。今後の課題は、現状20インチ程度の表示面積の拡大や消費電力の抑制だが、2030年代には解決されるだろう(※2)。
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