技術の種をどう育てていくかは、企業経営にとっても重要な課題だ。AGCはガラスや化学品などの既存事業と新規事業を両立させる「両利きの経営」を掲げ、新しいイノベーションを生み出すための「模擬スタートアップ」を社内につくっている。
同社の最高技術責任者(CTO)出身で物理学者を目指していたという平井良典・最高経営責任者(CEO)にAGCの戦略、企業と研究機関・大学との関係がどうあるべきか聞いた。
- 2021年1月に最高技術責任者(CTO)から最高経営責任者(CEO)へ就任しました。CTO出身者として日本の基礎研究と産業競争力の関係をどのように見ていますか。

AGCの平井良典CEO(以下平井氏):日本の大学ランキングが2000年代から徐々に下落していったタイミングは、ちょうど日本の産業競争力が落ちる時期と重なります。かつて私が関わっていた液晶ディスプレーは2000年代に世界の約8割のシェアを日本が持っていたものの、もろくも崩れ去り、08年にAGCも液晶パネル子会社の売却を迫られました。






 参考になるのがやはり米国ですね。この30年で世界のGDP(国内総生産)に占める割合で米国は25%と変わっておらず、GDPの絶対額は大きく伸びています。半導体などの分野で1980年代に日本に追いつかれそうになり、伝統的な製造業からがらりと産業構造を変えました。  

そうして生まれたのが、現在の米グーグルをはじめとしたテックジャイアントです。基盤になったのが産学連携や起業の数ではないでしょうか。日本と圧倒的に数が違い、学術的な資金も大学が豊富に持っています。 ビジネスも大学も新しい事業を起こすのは、やり方の問題なんじゃないか、と考えています。
- 研究の芽を絶やさないために、AGCではどういった戦略を掲げていますか。

平井氏:CTO出身者として思うのが、将来を見た長期的な施策と既存事業を両立させることです。これが「両利きの経営」です。  

2011年に、ガラスやディスプレー以外の新しい収益の柱をつくることを目的とした「事業開拓室」を設立しました。将来の目標を考えることから始め、まず1000個あるテーマのうち50個ほどに絞り込みます。質のいいテーマを設定できれば、5割くらいは当てられる。
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