東洋紡sim東洋紡の主力製品の1つであるフィルムの販売が好調だ。海外工業フィルム営業部の森田雄一朗さんは、2007年の入社以来、工業用フィルムの営業一筋14年のベテランだ。世界中の液晶テレビや大型モニターに使われる「コスモシャインSRF」を担当する。取引先の小さな変化も見逃さない観察眼を武器に、看板商品の販売という重責を担っている。

コスモシャインSRFは、液晶ディスプレーの偏光子の保護などに使われるポリエステルフィルムだ。液晶テレビや大型のモニター、ノートパソコンなどに使われる。21年3月期は製品売上高を3割伸ばし、東洋紡の工業用フィルムの中でも稼ぎ頭だ。かつて液晶ディスプレーで多く使われていた別素材のフィルムに比べて色むらが少なく、吸湿性が低いために変形しにくい特長も備える。

森田さんが営業現場で心がけるのは、取引先の小さな変化をキャッチすることだ。なぜ商談の時にあんな雑談をしたのか、今日はいつもと少し違う表情が多かったなど相手の言動の背景をよく考える。営業スキルとして身につけたのではなく「昔からのくせで気になるんです」と笑う。





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取引先の中には、他社製品への不満や東洋紡への要望をストレートには言わない人もいる。「ちなみに東洋紡さんはどうなんですか」などと雑談の中で遠回しに尋ねてきたら、そこに潜む相手のニーズをくみ取る。

若手で汎用フィルムの担当だった時、ふとした会話から取引先がフィルムのロールの長さに不満を持っていることに気づいた。取引先の生産効率を高める利点もあり、より長いロールの製品を提案して採用につなげた。

新型コロナウイルス禍で海外の取引先と直接会ってコミュニケーションをとることは難しくなった。言葉の壁に加えて、オンライン上の商談で相手の本音はなかなか見えてこない。それでも現地の代理店と協力しながら、変化に目をこらす。

19年3月から主力のコスモシャインSRFを担当する。これまでの「個人プレー」中心から、生産や開発など多くの関係者と足並みをそろえた売り方が求められる。「チームでは自分の考えとは違う方針になることもある」。ジレンマを感じる時があっても「それ以上に任せてもらったやりがいが大きい」と話す。

3つの生産ラインの担当者や開発担当者など10人以上と日々コミュニケーションを取りながら、取引先の要望や想定外のトラブルに対処する。テレワークも増えたが、メールだけのやりとりはできるだけ避ける。声の調子が分かる電話や表情が見えるオンライン会議の方が、話の内容や意図が正確に伝わるからだ。

森田さんがコスモシャインSRFを担当し始めたころは、供給が追いつかない状況だった。20年に犬山工場(愛知県犬山市)の生産ライン増設で生産能力は5割高まった。販売も順調に伸び、今では液晶テレビの採用シェアはグローバルで45%に上る。

取引先と持続可能な関係を築くことも重視する。極端に安い価格を提示して受注やシェアを伸ばしても長くは続かない。若手の頃は競合他社と価格面ばかりで競ったこともあった。今は顧客の様々なニーズを察知し、相手工場の生産性向上につながるといった付加価値とともに提案する。「単価勝負ではなく、互いにプラスの関係を築きたい」

偏光板メーカーや、フィルムを偏光子に貼り付ける加工メーカーは納期などについて厳しい要望を出してくる時がある。森田さんは「正直大変です」と苦笑いするが、求められたことにはできる限り対応する。

日ごろから取引先の生産や受注状況に動きはないか、キャッチボールをできるだけ重ねて、新たな要望が出そうなタイミングやきっかけをなるべく早くつかむ。いち早く要望が分かれば、東洋紡の対応に余裕ができる。「コスモシャインSRFを骨太な、息の長い製品にしたい」。フィルムで世の中を支える醍醐味を改めて楽しんでいる。

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