「AQUOS(アクオス)」といえばシャープの映像関連機器ブランドとして知られるが、その中心的事業だった液晶テレビは、韓国や中国との激しい価格競争に敗れ、米国市場から撤退するなど長らく低迷した。だが、ここにきて息を吹き返しつつある。はたしてアクオスブランドは再び世界でその名を轟かすことができるのか──。
シャープは10月26日、液晶テレビ「AQUOS」の新シリーズを発表した。「AQUOS XLED」と名付けられたシリーズの最大の特徴は、バックライトにminiLEDを使っていることだ。
液晶テレビの原理は液晶の後ろから光(バックライト)を当て、液晶部分で光の透過具合を調整することで映像を映す。
XLEDは、従来の10分の1の大きさのLEDを72倍の個数、設置した。その結果、映像上の暗い部分については、該当部分のバックライトを消すことでより暗く、明るい部分は逆にバックライトを集中的に当てることで明暗の違いをはっきり出せるようになった。
シャープは10月26日、液晶テレビ「AQUOS」の新シリーズを発表した。「AQUOS XLED」と名付けられたシリーズの最大の特徴は、バックライトにminiLEDを使っていることだ。
液晶テレビの原理は液晶の後ろから光(バックライト)を当て、液晶部分で光の透過具合を調整することで映像を映す。
XLEDは、従来の10分の1の大きさのLEDを72倍の個数、設置した。その結果、映像上の暗い部分については、該当部分のバックライトを消すことでより暗く、明るい部分は逆にバックライトを集中的に当てることで明暗の違いをはっきり出せるようになった。
その中の最上位機種の価格は、85型で176万円前後、65型で66万円前後になると見られている(価格はいずれも店頭予想価格)。今や65型の大型テレビでもネットなどでは10万円以下で売られていることを考えれば、176万円という値段は“破格”というほかはない。
そしてこの値段からは、XLEDが日本市場だけを念頭においたものではないことがうかがえる。
日の丸テレビメーカーの失墜
XLED発表の1週間ほど前、日経新聞は「シャープ、来春に米国でTV再参入」と報じ、その後各種メディアが後追いした。
この報道についてシャープは公式コメントを出さなかったが、XLED発表の席で喜多村和洋・執行役員スマートディスプレイシステム事業本部長は「米国での再参入を検討しているのは事実」と発言。事実上、報道を追認した。
かつて米国のテレビ市場は日本メーカーの独壇場で、ソニー、パナソニック、シャープなどがシェアを競っていた。
ところがリーマンショック前後になると、日本メーカーは台頭する韓国・中国製に価格面から太刀打ちできず、急速に存在感を失っていくとともに、テレビ事業そのものが各社のお荷物になっていった。
そこで日の丸テレビメーカー各社は、それまでの量を追う姿勢を改めて質を追求するとともに、戦線の大幅な縮小に踏み切った。その結果、米国市場からの撤退も相次ぎ、今ではソニーだけがほとんど唯一、米国市場に踏みとどまっているに過ぎない。
シャープが、米国から撤退したのは2016年。メキシコのテレビ工場を中国ハイセンスに売却するとともに米国のテレビ事業をブランドごとハイセンスに供与した。
当時のシャープは液晶パネル事業やテレビ事業の不振で存亡の危機を迎えていた。そのためリストラに躍起になっており、米国撤退もその一環だった。そしてこの年、シャープは台湾資本の鴻海(ホンハイ)精密工業の資本を受け入れ子会社になる。
鴻海流経営を導入したことで、シャープの業績は安定する。2017年3月期には3年ぶりに黒字となり、2016年に東証1部から東証2部に転落していたが、2017年12月には1部への復帰を果たした。それに伴い、シャープ社内では、米国再参入への夢が膨らんでいった。
ただしそのための障害がひとつあった。前述のように、シャープは米国でのテレビ事業をブランドごとハイセンスに渡したため、そのままではAQUOSを利用することができない。そこでシャープはハイセンスとブランドを取り戻す交渉を始める。
それが実ったのは2019年5月。シャープは次のニュースリリースは発表した。
〈シャープは Hisense International(Hong Kong)America Investment Co. Limitedと、新たな協力関係を構築することで合意いたしました〉
この中にある「新たなる協力関係」こそが、ブランド権の取得を意味している。これで米国市場復帰への障害はなくなった。
プレミアムテレビで米国再参入
さらにリリースには続けて〈この合意により、2019年後半以降、まずは米国市場におけるテレビ事業に再参入いたします〉と書かれていた。
つまりこの時点でシャープは、1年以内での再参入を目論んでいたことがわかる。ところが、実際に販売を再開するのは来年春以降と、2年以上後ろ倒しになった。
おそらく再参入が可能になって以降、綿密な市場調査を行った結果、当時のシャープのラインナップでは苦戦必至という結論が出たということだろう。
日本勢が相次ぎ撤退して以来、米国テレビ市場は中韓勢が圧倒している。特にボリュームゾーンの価格帯のテレビに関しては、中韓以外のメーカーは価格面で太刀打ちできない。
唯一、シェアトップ10以内に入っているソニーは、プレミアムテレビと言われる価格帯で勝負をしている。プレミアムテレビとは50型以上、かつネット接続のためのソフトウェアを搭載するなどの高機能が特徴だ。シャープも再参入するのにこの土俵を選んだ。
試される鴻海との協業効果
そのために開発されたのが先日発表したXLEDだ。実は、miniLEDという技術に関してシャープは、2019年1月にラスベガスで開かれた世界最大のエレクトロニクス見本市で公開している。それから2年余りの時間をかけてようやく満足のいく品質のものができたことで、満を持して米国へ再参入する。
しかも前回の米国販売時とは違い、今度はバックに鴻海がついている。miniLED自体も「シャープと鴻海グループで開発した」(前出・喜多村執行役員)と語るように、鴻海の技術力も大きく貢献している。また製造も鴻海の工場を活用することでコストを抑えることも可能だ。
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