医師が遠く離れた患者を診察するオンライン診療に、発光する素材「有機EL」を使った照明やディスプレーを導入する試みが始まった。山形大の城戸淳二教授らは鮮明な画質で患者の顔色も自然に映り、対面と遜色ない「臨場感」を実現。誤診を懸念し、医療機関がオンライン診療に二の足を踏む中、有機ELを普及のきっかけとしたい考えだ。

 「皮膚の傷や目の充血、舌のざらつきまで分かる」。介護老人保健施設「サンファミリア米沢」(山形県米沢市)の一室で9月、医師と共に画面をのぞき込んだ副施設長の大武政通さんは驚きの声を上げた。

 山形大が組み立てた有機ELディスプレーには、施設の別の場所で、有機EL照明で照らされた利用者が映っていた。





 新型コロナウイルスの影響で施設は今も一部の面会制限が続く。常駐医師が不在となる夜間や休日でも、利用者が診察を受けられるオンライン診療の導入は喫緊の課題だ。大武さんは「(医師の)各自宅に設置できれば在宅でも診察できる。可能性は無限だ」と手応えを感じた。

 オンライン診療は過疎地域での医師不足解消につながるとして期待を集めるが、普及していない。厚生労働省によると、6月末時点で導入可能と登録した医療機関は全体のわずか15・0%。要因の1つにあるのが「誤診につながる」との懸念だ。一般的なパソコンなどの液晶の画質は精度が劣り、顔色や口の中の様子は分からず、診察に必要な情報が不足していることも原因とされる。

こうした現状を打破しようと、城戸教授らはオンライン診療への有機EL導入に取り組む。有機ELは電圧をかけると発光。普及している発光ダイオード(LED)に比べ、ディスプレーは完全な黒を表現でき、高コントラストで映像は色鮮やか。照明はより自然光に近く、誤診につながる見落としを避けられると期待を寄せる。

 10月中旬にはNTT東日本山形支店とも協力し、山形県の離島で医師が常駐していない飛島(酒田市)にも機材を設置、同市の本州側にある病院とつないだ。今後、実証の結果を踏まえ、山形大発のベンチャー企業で年内の製品化を目指す。

 将来的な目標は、全ての診察を医療機関にいなくても受けられる環境づくりだ。山形大では、ベッド下に敷くと心拍数や呼吸を計測するセンサーも既に開発。有機ELと組み合わせた診療も視野に入れる。城戸教授は「イノベーションを山形から起こし、全国に広げていきたい」と意気込む。

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