samsung qled 2021000000-1サムスン電子は30日、テレビ向けの次世代有機ELパネルの量産を始めた。同分野で8割超のシェアを持つ韓国LGディスプレー(LGD)の牙城に攻め込む形で、両社の競争によって有機ELテレビの値下がりにつながる可能性がある。サムスンはパネル市場において有機ELに集中し、背後に迫る中国勢を振り切る狙いだ。

グループ傘下のサムスンディスプレーが30日、主力拠点の韓国中部の牙山(アサン)キャンパスで出荷式を開いた。サムスンディスプレー社長や同社幹部が出席した。

新型パネルの名称は「QD(量子ドット)ディスプレー」。有機材料を発光させて映像を表示する有機ELパネルの一種で、青色の有機EL材料が放つ光の波長を緑や赤に変換して映像を映し出す。微細な半導体結晶の「QD膜」と呼ぶ特殊な素材で波長を変換することで、より豊かな色の再現が可能になるという。





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サムスンは専門企業などと素材開発を進めて発光材料の寿命といった課題を克服した。量産規模は、220センチ×250センチの「8.5世代」と呼ばれるガラス基板サイズで月産3万枚。55インチのテレビ換算では月18万台分に相当する。

現在、テレビ向け有機ELパネルで主流なのはLGDの「白色有機EL」。有機材料の白色光をカラーフィルターに通して赤や緑、青に変換して描画する仕組みだ。これに対してサムスンの新方式は一段と鮮明な発色が可能とされ、自社製の高価格帯のテレビに搭載して2022年春にも新製品を発売する。

サムスンは大型の有機ELパネルで1割強のシェアを持つが、パソコン用のモニター向けが主で、テレビ用の参入は実質的に初めてとなる。QDディスプレーについて、研究開発と量産投資で総額1兆2000億円を投じる計画を表明済みだ。

サムスンのサプライヤー企業によると、ソニーグループも同パネルの採用意欲を持ち、技術的な検証作業とともに調達交渉を進めているという。牙山キャンパスはソニーとの液晶パネル合弁工場があった拠点で、12年に合弁を解消した経緯がある。新型パネルの供給が始まれば、両社が有機ELで協業する形となる。

米調査会社DSCCによると、20年の有機ELパネル市場は344億ドル(約4兆円)でテレビ向けは10%程度にとどまる。世界のテレビ出荷台数2億3000万台のうち液晶が98%を占め、有機ELの存在感は小さい。

だが、LGDの1社独占状態だったテレビ向け有機EL市場で競争が生まれることで、足元で液晶テレビと2倍ほどの価格差がある有機ELテレビの価格低下につながる可能性もある。液晶テレビからシェアを奪う場面も出てきそうだ。

これまで有機ELパネル市場は大きさにかかわらず韓国2社がほぼ独占してきた。技術方式の違いから大型はLGD、中小型はサムスンとすみ分けてきた経緯がある。サムスンは次世代有機ELでLGDの牙城に攻め込む形となるが、LGDも黙っていない。サムスンが高いシェアを持つスマートフォン用パネルで存在感を高めている。

LGDは20年から米アップルのiPhone向けの有機ELパネル供給を本格化した。21年8月には、坡州(パジュ)市の主力工場で3兆3000億ウォン(約3100億円)の増産投資を発表した。新規生産ラインはアップル専用ラインになるとみられる。

韓国2社が互いの領域を侵食しながら有機ELに注力する背景には、パネル市場における中国勢の台頭がある。京東方科技集団(BOE)や華星光電(CSOT)が液晶パネルで市場を席巻している。

防戦一方の韓国勢は液晶事業の縮小を表明。サムスンは22年半ばに液晶から完全撤退する方針をサプライヤーに伝え、LGDも韓国内のテレビ用液晶パネル生産を中止すると表明している。

そこにはディスプレー産業が抱える根本的な問題もある。ディスプレーは既に解像度や色域などが人間の目で違いを認識するのが難しい水準まで進歩しており、数値で示しやすいスペックで他社との違いが打ち出しにくくなっているのだ。半導体産業には見られないディスプレー特有のコモディティー(汎用品)化も、中国勢の躍進の一因となっている。

中国勢は有機ELでも技術力を高めつつある。BOEはアップルが21年に発売した最新iPhoneに有機ELを供給し始めた。

かつて日本企業のお株を奪う形で躍進したサムスンも今や中国勢に追われる立場となった。劣勢を打破するために打ち出した次世代有機ELパネルは韓国のディスプレー産業の命運を分ける試金石の一つになりそうだ。

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