日東電工が独自のビジネスモデル「グローバルニッチトップ」を旗頭に成長を続けている。偏光板などの液晶材料事業頼みの経営から脱し、医療や次世代カーといった新領域の開拓に乗り出している。ニッチ分野で「なくてはならない」会社をめざすと宣言する高崎秀雄社長は就任から9年目に入った。日東電工をどう変えているのか。その針路を聞いた。
――「グローバルニッチトップ」という戦略はどう生まれたのですか。
「当社はかつて日立製作所傘下のグループ企業だった。当時は日立グループのなかでも日東電工の名前は出てこなかったため、外様のさらに外にいる存在だった。私の2代前の社長時に日立は当社株を手放した。外部などに当社が売られるといった心配がなくなり安心してニッチトップの追求、自社の成長を目指せる環境が整った。当社にとって歴史的な出来事で、そこから新しい日東電工のスタイルが生まれた」
――「グローバルニッチトップ」という戦略はどう生まれたのですか。
「当社はかつて日立製作所傘下のグループ企業だった。当時は日立グループのなかでも日東電工の名前は出てこなかったため、外様のさらに外にいる存在だった。私の2代前の社長時に日立は当社株を手放した。外部などに当社が売られるといった心配がなくなり安心してニッチトップの追求、自社の成長を目指せる環境が整った。当社にとって歴史的な出来事で、そこから新しい日東電工のスタイルが生まれた」
「もう一つのビジネスモデルである、新製品開発と新用途開拓、新需要創造の『三新活動』は約60年前に生まれた。変化する市場でトップを堅持するためには、三新活動だけでは難しいため、グローバルニッチという考えが生まれた。経済産業省や企業、大学でも最近、『グローバルトップ』など似たような言葉をみかけるが、『グローバルニッチトップ』は当社が商標登録している」
――4月に社長就任から9年目となりました。就任時と比べ日東電工を巡る環境はどう変わりましたか。
「14年に就いた時、当社の株価は4000円台で営業利益も約700億円だった。私はちょうど10代目社長で、任期期間中の18年に創業100周年を迎えると思った。三新活動やグローバルニッチトップといった企業文化は残しつつ、これまでの日東電工の姿を変え、次の100年の成長につながるベースをつくることが自身の使命だと思った」
「これまで『スマートフォンは日東電工がないと動かない』と言われたように、主力の偏光板などの液晶材料は社会の利便性を追求して成長してきた。次の100年を考えたとき、それだけでは成長ができない。私が目指したいのは世の中の環境、人の命、健やかな生活に貢献できる会社だ。ESG(環境・社会・企業統治)を意識した経営だ」
「ポートフォリオも変えた。目玉が4月に立ち上げたヒューマンライフソリューション事業で、次の成長柱として期待できる核酸医薬とメンブレンを手掛ける」
――会社を変えるために社員には何を求めていますか。
「社員には『あったらいいな』ではなく、『なくてはならない存在』の製品を目指すように指示している。『あったらいいな』は他社もまねができ、業界の2~3番手で満足してしまう。『なくてはならない』サービスや製品の提供が企業成長のカギとなる」
「就任当時は『偏光板=日東電工』のイメージが強かった。偏光板だけでは成長に限界があり、常に液晶材料以外でニッチトップを目指せないかを模索していた。次の成長の柱と期待する回路基板や核酸医薬で、軌道に乗るまで10年かかった。核酸医薬やスマホ向けの高精度基板は他社が追随できず、オンリーワンになっている。ただ社員にはオンリーワンではなく、ナンバーワンになれと言っている。顧客の事業継続計画(BCP)の観点からいえば、製品は2~3社から購買できる環境をつくり上げることが一番理想だ」
――ESGという視点が経営に必要とした背景は。
「社長という責任を負うようになってからESG観点が必要だと思い始めた。その前も専務や常務の立場で歴代先輩社長の働きぶりを見てきた。経営には他の役員の支えもあり、6~7人くらい副社長を設ける会社もある。でもトップは一人で、孤独でありながら全ての責任を持つ立場となる。これは副社長や専務、常務の立場では経験ができないことだ」
「過去の先輩経営者がつくった流れは大事にしたい。ただ外部環境の変化は激しく、攻めと守りを常に考えなければならない。特にやめる事業や製品に対して、経営者はそれを判断することに勇気が必要だ。外部からは『事業はもうかっている』『顧客から信頼されている』と言われるが、思い切ってやめ、そのリソースを成長事業に回すことも大事だ」
――経営という観点で大事にしている点は何ですか。
「成長戦略と構造改革の両輪を回すことだ。一般的には成長戦略に目が行きがちで、従業員の達成感にもつながる。ただ構造改革や合理化は成長するために欠かせない考えであり、これが利益を生み出す」
「成長分野に対して企業は人や設備に大量投資するため、事業は伸びやすくなる。ただ事業陳腐化の段階に入ると、投資したリソースはいらないエネルギーになる。そのときに次のニッチトップ事業があればリソースを回せる。そのため成長し続けているときこそ、危機感を持ち、次の成長柱を模索している」
――ウクライナ情勢など外部環境が様変わりしています。サプライチェーンはどう変えていきますか。
「世界が大きく二極化したときに、どちらの経済圏からでも材料の調達からものづくり、製品の提供ができる体制を築く必要がある。例えばスマホ部品や自動車部品の生産は中国に拠点を置くが、外部環境の変動をふまえ、次の手を打っていかないとならない。政治がらみのマクロ変化は、ビジネス側としてはどこで安定してものづくりができるかを常に先を読んで考えなければならない」
――海外売上高が8割に達するなか、今後はどこに注力しますか。
「海外顧客と海外向けの製品が多いため、安定した製品供給を考える。設計、スペックイン、量産の拠点を見直す必要がある。同時にバックアップ拠点も課題だ。いままではコスト、顧客の近くで生産することを重視していた。これからは政治や戦争、自然災害も拠点を考えるうえで要因としてみる必要がある。あまり分散しすぎると、今度は収益性にも影響がでる」
「ものづくりは徹底した自動化が実現できれば、生産拠点を考えるうえで人件費などのコストが安いところにこだわらなくてもいい形になる。特に電子部品や液晶材料などは生産性の自動管理が比較的にしやすい分野だ。英モンディからおむつ材料事業を買収する。将来注力したい事業の意味で買収を決めたが、もう1つ魅力だったのが、工業先進国のドイツに生産拠点があることだ。当社は欧州に拠点があるが、これを機に欧州でのビジネスを見直し、成長拡大につなげたい」
――最近はM&Aにも注力しています。
「この会社に40数年いるが、三新活動やニッチトップ戦略は自前でないとスピードがつかないと思っており、オリジナルの発想でものづくりにかかわっていた。ただ、これだけ変化する外部環境があり、自前にこだわり過ぎると、時間軸が合わなくなる」
「M&Aや外部提携はハイエンドでニッチトップにつながる分野だ。社員に参入業界をハイエンド、ミドル、ローで分けて考えるように言っている。ローは顧客が多く参入しやすい一方、ハイエンドは商機が小さいとみえる。ただ、ハイエンドに日東電工がなくてはならないサプライヤーの存在となれば、業界のトップ企業との取引も増え、ニッチトップにもつながる」
――液晶材料は車載やメタバースを次の成長領域にしています。
「スマホはハイエンドモデルでパネルが有機ELの使用が増え、当社が次に注力できるのはこの有機EL分野であることは分かってきた。その先の成長事業を考えたときに、車載やメタバースとなる」
「車載分野は、激しい温度変化や過酷な条件に対応できる偏光板が求められる。テレビは外で見ないため、精度は当然必要だが、過酷な環境に対応できる、そこまで高い技術はいらない。特に最新の車の液晶は1枚ものが多く、そこに過酷な条件で対応できる偏光板が需要は高い」
「メタバースはハードウエア向けの液晶材料にも商機があるが、VR機械は長いコードが付いているため、当社がいま開発を進めているプラスチック製光ファイバーにも商機がある。今年から実績を作っていきたい。光ファイバーは車向けワイヤハーネスにも使える。電気自動車(EV)が多くなり、センサーが多く搭載される一方、車自体の軽量化が求められる。そのなかで軽量化につながる光ファイバーの需要は高いとみる」
――「スマホの次」は何ですか。
「メタバースは次に来る1つだ。その中に使われる部品はもちろん、半導体や電子部品の製造過程に使われる工程材には当社はもともと強みを持ち、これからも商機として考えられる。加えてESGが主流となり、ESGを意識した製品開発、経営戦略が必要だ。21年9月に公表した30年までの二酸化炭素(CO2)排出量削減の目標も見直す考えだ」
――社長就任から9年目。上場企業では異例の長さに見えます。
「あらかじめ社長の任期を決めている企業もあるが、当社がそのような規則を設けていたら、私は社長を受けていなかった」
――後継者は。
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