その変化は主にハイエンドな製品から現れているわけだが、すべてが「一番上の価格」のモデルで起きているわけでもない。そのことに影響しているのが「量子ドット」技術だ。
数年前から一部メーカーが使っていたが、正直あまり話題にはなってこなかったように思う。
それがなぜ今年脚光を浴びることになったのか? TVS REGZAの説明を引用する形で解説してみよう。
■発色がリッチになる「量子ドット」とはなにか
8月31日に、REGZAの新モデル「Z770L」シリーズが出荷される。このモデル、過去の製品に比べるとかなり発色が良い。
Zシリーズなので、この製品はそれなりのグレードの製品だ。ただし近年は上位に「Xシリーズ」もあるので、最上位というわけでもない。ディスプレイとして使っているのは液晶。バックライトを背面に配置した「直下型バックライト」ではあるが、コントラスト向上により寄与する「ミニLED」採用モデルでもない。
REGZAの場合、Z770Lの下位モデルといえる「Z670L」シリーズや、上位のミニLEDモデルである「Z875L」シリーズも発色・色の表現力は向上している。そこで活用されているのが「量子ドット」技術だ。なんとなく物々しい言葉だが、なにかといえば「バックライトの色を変えて発光させる技術」である。
一般的な液晶テレビでは、白いLEDの光を液晶に通し、カラーフィルターを通って光の三原色(赤・緑・青)にする。ただ、白い光といっても、実際には青色LEDに黄色い蛍光体を被せて白を作るので、三原色が等しく出ているわけではないし、あいだで色も混ざる。結果として発色が悪くなるわけだ。
では量子ドットを使った液晶はどうなるのか? 次の写真は、TVS REGZAが公開した、量子ドットを採用したテレビのカット模型だ。LEDが並んでいるが、白ではなく青のままである点に注目してほしい。そしてその前に、「量子ドットを練り込んだ樹脂の板」がある。
量子ドットを練り込んだ板には、「量子ドット」として働く半導体粒子が入っている。その粒子には「青色の光で赤く発光するもの」と「青色の粒子で緑色に発光するもの」があり、それぞれが独自の配分で混合されている。
結果として、青色の光で赤と緑が発光し、青はそのまま透過して表現されることになる。その上にさらにカラーフィルターがあり、そこで色の調整が行われて、「量子ドットを使った液晶」になる、という仕組みだ。
以下の写真は量子ドットを蛍光物質で模したもので、実際の量子ドットではない。しかしこれと同じように、光が当たるとそれぞれの色に発光する、という点では同じなので、イメージは掴めるのではないだろうか。
ではREGZAの場合、どのくらい色域が広がったのか? 以下は、TVS REGZAが示したデータだ。
白い三角が従来型バックライトの、黄色い線が量子ドット液晶での色域。赤・緑・青の領域がストレートに伸び、そこに影響され、青と緑の混合領域(シアン)や青と赤の混合領域(パープル)の部分でも色域が広がっている点に注目してほしい。このように赤・緑・青の純度が高まった結果、発色がよりリッチに見えるようになったわけだ。
ただ、そのままだと肌色などの混色部の色が変わってしまうので、画像エンジンで色調整を行い、広がった色域と「テレビ向けに作られた映像として自然な発色」の両立を目指しているという。
■量子ドットで画質を上げるには「高い輝度」が必須
一方、量子ドットを採用しているメーカーはTVS REGZAだけではない。中国系メーカーは数年前から先駆けて導入しており、サムスンも「QLED」「Neo QLED」の名称で量子ドットを使って液晶テレビを拡販していた。日本でもTCLなどが販売している。
だが、これまでは日本で、量子ドットはそこまで流行らなかった。筆者もこれまで発売された製品を見てきたが、そこまで色が良くなっている印象は受けていなかった。取材の中で、REGZAを含む日本のテレビメーカーに「量子ドットは?」と質問もしてきたが、去年までは色良い返事が返ってこなかったのも事実だ。
しかし今年に入って、シャープがミニLED採用製品である「AQUOS XLED」シリーズで量子ドットを採用し、TVS REGZAもまた量子ドット推しになっている。
なにが彼らの考えを変えたのだろうか? 答えはシンプルで、それは「輝度」だ。どうやら、量子ドットは輝度が低いと十分な効果を発揮できないらしい。色分割性能の高まりよりも色の濁りが気になって、全体の画質向上に結びつきづらい。
しかし、より高い輝度のバックライトを使えば、量子ドットの効果は出る。ミニLEDを使った製品で採用が進んでいるのは、ミニLEDであればLEDの数が多く、輝度が増すからだ。
ただ冷静に考えると、「バックライト輝度を上げればいいなら、ミニLEDである必然性はない」ということになる。ミニLEDは、LEDの個数が劇的に増えるため価格が高くなる。トップクラスの製品としてはそれでいいが、もう少しお値打ちなラインの製品では使いづらい。
というわけでTVS REGZAは、今年のZシリーズとして「バックライト輝度を上げつつ量子ドットを採用した液晶ディスプレイ」を採用することで、色域の広いテレビを作った、ということになるだろう。だから実は、今年のREGZA Zシリーズは、色域が広いだけでなく「明るい」のである。
逆にいえば、このやり方は別にTVS REGZAの秘密でもなんでもない、ということになる。今年はともかく、来年以降は他社でも、バックライト輝度を高めつつ量子ドットを使ったテレビが出てくる可能性は高いと考えられる。
■有機ELの「量子ドット」はまだ始まったばかり
そして今年、量子ドットを使っている製品は「有機EL」にもある。液晶と同じように、青色に発光する有機ELに量子ドットを使ったフィルターをかけて赤・緑を表現する仕組みだ。この方式はサムスンが「QD-OLED」という名称で採用しており、日本メーカーの場合、ソニーの最上位モデル「BRAVIA A95K」に採用されている。
ただ、QD-OLEDのパネルは生産がまだ追いついていないようで、サムスン自身とソニーくらいしか採用していない。他社はまだ「使いたいが様子見」というところのようだ。
今の有機ELテレビではLGディスプレイのパネルが主流だ。こちらでは白の有機ELにカラーフィルターをかけつつ、輝度をカバーするために「白」の部分も用意した「RGBW」構造になっている。以前は輝度が高くなると白の関与度が増えて「色が薄くなる」欠点があったのだが、今はかなり抑えられており、発色も良くなっている。
コントラストではいまだ有機ELが有利で、発色も良い。だから量子ドットを導入したとしても、トータルの画質では液晶より有機ELに軍配が上がる。だが液晶は有機ELに比べ、サイズが大きくても安価になりやすいという特徴がある。
というわけで、実は今のテレビ市場は、「サイズは抑えめだがコントラスト優先で有機ELを選ぶ都市部」と、「サイズ優先で液晶を選ぶ地方」に完全に分かれている。この辺もちょっと頭に入れておいた上で、賢いテレビ選びをしていただければと思う。
8月31日に、REGZAの新モデル「Z770L」シリーズが出荷される。このモデル、過去の製品に比べるとかなり発色が良い。
Zシリーズなので、この製品はそれなりのグレードの製品だ。ただし近年は上位に「Xシリーズ」もあるので、最上位というわけでもない。ディスプレイとして使っているのは液晶。バックライトを背面に配置した「直下型バックライト」ではあるが、コントラスト向上により寄与する「ミニLED」採用モデルでもない。
REGZAの場合、Z770Lの下位モデルといえる「Z670L」シリーズや、上位のミニLEDモデルである「Z875L」シリーズも発色・色の表現力は向上している。そこで活用されているのが「量子ドット」技術だ。なんとなく物々しい言葉だが、なにかといえば「バックライトの色を変えて発光させる技術」である。
一般的な液晶テレビでは、白いLEDの光を液晶に通し、カラーフィルターを通って光の三原色(赤・緑・青)にする。ただ、白い光といっても、実際には青色LEDに黄色い蛍光体を被せて白を作るので、三原色が等しく出ているわけではないし、あいだで色も混ざる。結果として発色が悪くなるわけだ。
では量子ドットを使った液晶はどうなるのか? 次の写真は、TVS REGZAが公開した、量子ドットを採用したテレビのカット模型だ。LEDが並んでいるが、白ではなく青のままである点に注目してほしい。そしてその前に、「量子ドットを練り込んだ樹脂の板」がある。
量子ドットを練り込んだ板には、「量子ドット」として働く半導体粒子が入っている。その粒子には「青色の光で赤く発光するもの」と「青色の粒子で緑色に発光するもの」があり、それぞれが独自の配分で混合されている。
結果として、青色の光で赤と緑が発光し、青はそのまま透過して表現されることになる。その上にさらにカラーフィルターがあり、そこで色の調整が行われて、「量子ドットを使った液晶」になる、という仕組みだ。
以下の写真は量子ドットを蛍光物質で模したもので、実際の量子ドットではない。しかしこれと同じように、光が当たるとそれぞれの色に発光する、という点では同じなので、イメージは掴めるのではないだろうか。
ではREGZAの場合、どのくらい色域が広がったのか? 以下は、TVS REGZAが示したデータだ。
白い三角が従来型バックライトの、黄色い線が量子ドット液晶での色域。赤・緑・青の領域がストレートに伸び、そこに影響され、青と緑の混合領域(シアン)や青と赤の混合領域(パープル)の部分でも色域が広がっている点に注目してほしい。このように赤・緑・青の純度が高まった結果、発色がよりリッチに見えるようになったわけだ。
ただ、そのままだと肌色などの混色部の色が変わってしまうので、画像エンジンで色調整を行い、広がった色域と「テレビ向けに作られた映像として自然な発色」の両立を目指しているという。
■量子ドットで画質を上げるには「高い輝度」が必須
一方、量子ドットを採用しているメーカーはTVS REGZAだけではない。中国系メーカーは数年前から先駆けて導入しており、サムスンも「QLED」「Neo QLED」の名称で量子ドットを使って液晶テレビを拡販していた。日本でもTCLなどが販売している。
だが、これまでは日本で、量子ドットはそこまで流行らなかった。筆者もこれまで発売された製品を見てきたが、そこまで色が良くなっている印象は受けていなかった。取材の中で、REGZAを含む日本のテレビメーカーに「量子ドットは?」と質問もしてきたが、去年までは色良い返事が返ってこなかったのも事実だ。
しかし今年に入って、シャープがミニLED採用製品である「AQUOS XLED」シリーズで量子ドットを採用し、TVS REGZAもまた量子ドット推しになっている。
なにが彼らの考えを変えたのだろうか? 答えはシンプルで、それは「輝度」だ。どうやら、量子ドットは輝度が低いと十分な効果を発揮できないらしい。色分割性能の高まりよりも色の濁りが気になって、全体の画質向上に結びつきづらい。
しかし、より高い輝度のバックライトを使えば、量子ドットの効果は出る。ミニLEDを使った製品で採用が進んでいるのは、ミニLEDであればLEDの数が多く、輝度が増すからだ。
ただ冷静に考えると、「バックライト輝度を上げればいいなら、ミニLEDである必然性はない」ということになる。ミニLEDは、LEDの個数が劇的に増えるため価格が高くなる。トップクラスの製品としてはそれでいいが、もう少しお値打ちなラインの製品では使いづらい。
というわけでTVS REGZAは、今年のZシリーズとして「バックライト輝度を上げつつ量子ドットを採用した液晶ディスプレイ」を採用することで、色域の広いテレビを作った、ということになるだろう。だから実は、今年のREGZA Zシリーズは、色域が広いだけでなく「明るい」のである。
逆にいえば、このやり方は別にTVS REGZAの秘密でもなんでもない、ということになる。今年はともかく、来年以降は他社でも、バックライト輝度を高めつつ量子ドットを使ったテレビが出てくる可能性は高いと考えられる。
■有機ELの「量子ドット」はまだ始まったばかり
そして今年、量子ドットを使っている製品は「有機EL」にもある。液晶と同じように、青色に発光する有機ELに量子ドットを使ったフィルターをかけて赤・緑を表現する仕組みだ。この方式はサムスンが「QD-OLED」という名称で採用しており、日本メーカーの場合、ソニーの最上位モデル「BRAVIA A95K」に採用されている。
ただ、QD-OLEDのパネルは生産がまだ追いついていないようで、サムスン自身とソニーくらいしか採用していない。他社はまだ「使いたいが様子見」というところのようだ。
今の有機ELテレビではLGディスプレイのパネルが主流だ。こちらでは白の有機ELにカラーフィルターをかけつつ、輝度をカバーするために「白」の部分も用意した「RGBW」構造になっている。以前は輝度が高くなると白の関与度が増えて「色が薄くなる」欠点があったのだが、今はかなり抑えられており、発色も良くなっている。
コントラストではいまだ有機ELが有利で、発色も良い。だから量子ドットを導入したとしても、トータルの画質では液晶より有機ELに軍配が上がる。だが液晶は有機ELに比べ、サイズが大きくても安価になりやすいという特徴がある。
というわけで、実は今のテレビ市場は、「サイズは抑えめだがコントラスト優先で有機ELを選ぶ都市部」と、「サイズ優先で液晶を選ぶ地方」に完全に分かれている。この辺もちょっと頭に入れておいた上で、賢いテレビ選びをしていただければと思う。
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