大型放射光施設「SPring-8」は、SDGsや2050年カーボンニュートラル達成に向けた研究を支える施設で、施設のグリーン化も積極的に進めています。しかし、その過程で意外なところにネックがあったのです。高エネルギーの電磁波である放射線にさらされると、長寿命のはずのLEDが数カ月で点灯しなくなってしまいました。田中 均グループディレクター(GD)らはその原因を究明し、驚くほど簡単な解決方法を見いだしました。

施設のグリーン化の一環として、SPring-8でも、蛍光灯からLEDへの置き換えを実施している。ところが、加速器トンネル内のLEDは数カ月ですべて故障してしまった。強い放射線(X線)の影響と考えられたが、当時、LEDのメーカーでさえそのような故障が起きるとは認識しておらず、原因も分からなかった。田中GDはその原因を探ろうとチームを立ち上げた。





そんな中、東北大学の敷地内に新設される次世代放射光施設※の設計を請け負った企業から問い合わせが入った。「放射線環境下で使用可能なLEDを探している。原子力施設用のLEDがあるが、高価なため、照明だけで総額1億円を超えてしまう。何か策はないか。照明の仕様は一年以内に固めたい」

次世代放射光施設のプロジェクトには理研も技術協力で参画しており、早急にこの難題を解決する必要に迫られた。LEDは省エネに貢献し、コストパフォーマンスが良いといっても短期間で故障してしまっては元も子もない。かといって原子力施設用の高いLEDを導入するほどの予算もかけたくない。田中GDらは、決して照明器具の専門家ではないが、安く省エネが達成できる照明を、と消費者目線で解決策を探した。

X線放射線下で壊れたLEDをメーカーが分析したところ、"電源部"のMOSFET半導体チップ(電界効果トランジスタの一種)表面に黒く焦げた痕跡が見つかった。電流や電圧による過剰なストレスがかかっていたのではないかという見解も伝えられたが、ストレスの原因は不明のままだった。

LEDは光を発する照明部と、交流を直流に変換する電源部から成る。SPring-8では初期費用を抑えるため、照明部と電源部が一体型のものを導入していた。焦げていた電源部だけを放射線から守ればLEDは壊れないのではないか。そう予測して照明部と電源部が分離した照明器具を試してみた。加速器トンネルの中でも特に放射線量の高い場所に、分離型と一体型の照明を設置して放射線量の加速試験をすると、一体型はすぐ故障したのに対し、トンネルの外に電源部を置いた分離型は少なくとも10年は問題なく使用できることが分かった。

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