今では誰もが知る有機ELの性能を実用レベルに引き上げた米イーストマン・コダックの元研究員のチン・W・タン氏はノーベル賞の候補だ。1950年代に発見された有機ELは今では、テレビやスマートフォンのディスプレーの主役になりつつある。

 米アップルが16日に発売したiPhone14には当たり前のように有機ELが採用された。輝度が上がり屋外でも見やすい。アップルは2017年から有機ELの採用を始めている。
韓国サムスン電子などが販売するディスプレー部分を折り畳みできるスマホにも、加工性に優れる有機ELは欠かせない。近年は任天堂の「ニンテンドースイッチ」などのゲーム機にも採用され、需要が拡大している。テレビでは大型の上位機種で普及が進む。

有機ELディスプレーは素子が発光する「自発光型」で、バックライトが必要な液晶ディスプレーに比べてコントラスト(明暗)比が優れ、美しい映像を表現できるほか、軽くて薄い。有機材料は柔軟性があり、曲げられる製品も作れる。






有機ELという言葉はもともと、炭素と酸素の化合物である有機材料に電圧をかけると光が出る物理現象「エレクトロ・ルミネッセンス(EL)」を指す。1950年代後半に発見されたが、当時は消費電力が高く、発光が極めて弱かった。

87年にコダックに在籍していたタン氏が低電圧で明るく光る有機ELを論文で発表した。だが開発した素子はすぐに光らなくなるため「クリスマスツリーにもならない」との声もあり、コダックは研究を一時中止した。一方、この発表を知ったパイオニアやNEC、三菱化学、出光興産などの日本勢はディスプレーなどへの応用を模索した。

テレビとして初めて商品化したのはソニーだ。2007年に11型の「XEL-1」を20万円で発売した。厚さが約3ミリメートルと極めて薄く、鮮やかな色彩が話題になった。

だが製品競争が激しくなると日本勢は投資競争で後れを取り、韓国勢の独壇場となった。21年の市場シェア(金額ベース)はサムスン電子が約6割、LGディスプレーが約2割を占めた。追いかける中国のパネル最大手、京東方科技集団(BOE)は生産能力の増強に動いており、四川省成都市に新工場を建設する検討に入った。

米調査会社DSCCによると、ディスプレーを構成する有機ELパネルの21年の世界需要は前年比51%増の1473万平方メートルだった。このうちテレビ向けが766万平方メートル、スマホ向けが633万平方メートルだった。

全体の需要は液晶パネル(2億4633万平方メートル)の10分の1以下ではあるものの、高い成長率が続く。26年には約2倍の2684万平方メートルまで拡大する見込みだ。現状ではコストは液晶パネルの2倍以上といわれており、スマホなどでは上位機種での採用が中心だが、DSCCは24年にもスマホ向けで液晶パネルを逆転すると予測する。

有機ELの実用化の立役者のタン氏は香港出身で、米コーネル大学で博士号を取得後、コダックに入った。有機ELのほか太陽電池の研究でも功績を挙げた。11年にはノーベル賞の登竜門といわれるイスラエルのウルフ賞(化学部門)、19年には稲盛財団(京都市)の京都賞を受賞した。

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