インドで半導体の国内生産計画が動き出した。インドの資源大手のベダンタは13日、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)と半導体・液晶の合弁工場を西部グジャラート州に建設すると発表した。

インドは半導体産業の育成に出遅れてきただけに、政界や地元では自国生産への期待が急速に高まっている。もっとも、事業主体について不安が残り、工場が順調に立ち上がるかどうかは不透明だ。

「インドが半導体という重要分野で自給するための大きな一歩となる」。ベダンタは13日の声明で、グジャラート州の半導体・液晶工場の意義をこう強調した。同社によると、総投資額は1兆5400億ルピー(約2兆8000億円)で、10万人の雇用創出効果があると試算。回路線幅28ナノ(ナノは10億分の1)メートルの製品の生産を想定し、2年内の建設を検討しているという。





ベダンタは石油やガス・金属関連の資源開発事業を手がけている。近年は液晶パネル用ガラスのアヴァンストレート(東京・品川)をグループに加えるなどハイテク事業にも進出しており、満を持して半導体市場へ参入する格好だ。同社のアニル・アガルワル会長は「戦略的分野で一歩を踏み出し、モディ首相が掲げる『自立したインド』のビジョンを支援できることを光栄に思う」と意気込む。

実際、モディ政権は製造業振興策として「メーク・イン・インディア」を掲げる。半導体については海外からの輸入に頼ってきたが、2021年後半から半導体不足によって自動車や電子機器生産に影響が出た。最近では半導体チップの供給不足からキャッシュカードなどの発行に遅れが生じているとして、インドの銀行が政府の介入を求めたと地元メディアが報じている。

同国政府にとって半導体産業の育成は喫緊の課題で、直近では半導体や液晶生産奨励へ7600億ルピーを投入する政策を打ち出した。ベダンタとフォックスコンの計画も支援対象となる可能性がある。モディ首相はツイッターで「半導体生産の野望を加速させるステップだ」と投稿し、関連する中小企業などへの波及効果への期待も示した。

工場を建設するグジャラート州は、モディ首相がかつて州首相を務めた「お膝元」でもある。同州は製造業の誘致に熱心に取り組んでおり、スズキの工場もある。パテル州首相はベダンタの計画について「すぐに操業を始められるよう、あらゆる支援を提供する」とコメント。地元は歓迎ムード一色だ。

業界団体のインド電子半導体協会(IESA)などによると、インドの半導体市場は携帯・ウエアラブル端末やIT(情報技術)向けの需要が多くを占める。2026年の市場規模は640億ドル(約9兆1500億円)と21年の2倍以上の水準に成長する見通しだ。内製化すれば、その需要を取り込める。

株式市場でも半導体事業への期待感は大きく、ムンバイ証券取引所に上場するベダンタ株には買いが集まり、270ルピーで推移していた株価は15日に一時320ルピーを超えた。だが、ここから暗雲が漂い始める。同社は同日に突如「半導体製造はベダンタではなく、(非上場の)持ち株会社のボルカン・インベストメンツが担う」と発表。市場ではこれまでの発表内容との整合性を疑う声が出て、16日の終値は前日比で7%以上下がった。

暗雲を払拭し、計画通りに生産開始に至るのか。市場はしばらくベダンタの動きに一喜一憂することになりそうだ。

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