先週ヨーロッパ諸国を歴訪していたアップルのティム・クックCEOは、オランダのニュースメディアBrightのインタビューに応じた。その中では、これまで通りAR(拡張現実)への関心の高さが語られつつ、一般人にとって「メタバース」は何か分からない可能性が高いという、捉えようによっては挑発的な言葉が飛び出している。

 以前からクック氏が、ARは次の巨大な市場になると期待し、AR事業に多額の投資をしていると発言していたのは広く知られていることだ。『ポケモン GO』がリリースからまもなく大ヒットしたことにも賞賛を惜しまず、「ARは本当に素晴らしいものになり得る」と述べていた。





メタバースとWeb3

今回の取材でも、クック氏はすでにApp Storeに様々なARアプリがあるとしつつ、この技術には「可能性はもっともっと広がるだろう」と力説している。

さらに「ARはすべてに影響を与える深遠な技術だと思う。突然、ARを使って教えられるようになり、様々なデモンストレーションができる様子を想像してほしい。医療にも応用できる。私たちは後に振り返って、かつてARなしでどうやって生きていたかを考え込むことになるだろう」とまで言う入れ込みぶりである。

それ以上に興味深いのは、クック氏のメタバースに関するコメントだ。この言葉にMeta社を初め多くの企業が社運を懸けているなか、「私は常に、人々が物事を理解できることが重要だと考えている。そして、一般の人がメタバースが何であるかを言えるかどうか、本当に自信がない」と述べている。

つまり一般人にとって「メタバース」は馴染みがない、意味が分からない可能性が高いと、ほのめかしているわけだ。

続けてバーチャルリアリティ(VR)は良いものだと言いつつ、「人生を丸ごと過ごす」ためのものではないという。「VRは時間を決めて使うものだが、うまくコミュニケーションを取れる手段ではない。だから反対はしないが、そういう見方をしている」とのことだ。

この発言は、以前Bloombergが報じた噂話ともきれいに符合している。同誌のMark Gurman氏は、アップルが注力しているのは「ゲーム、コミュニケーション、コンテンツ消費」向けのAR/VRヘッドセットであり、「一日中使うデバイス」ではないこと。そして社内では「メタバース」がユーザーが逃避できる完全な仮想世界と解釈されており、この言葉を使うことは「禁止」されていると述べていた。

現状のVRヘッドセットは、まさにゲームやコミュニケーション(VRチャットなど)といったコンテンツ消費に使われているが、一日中没入しているユーザーは稀のはずだ。少なくとも現行の製品では重すぎるし、通気性にも課題があり、「人生を丸ごと過ごせる」ものではない。

しかし、Meta社が数年後の進化したデバイスを想定しつつ、そうした将来像を漠然と描いているのは事実だろう。もちろん同社はそれをポジティブに宣伝しようとしていると思われるが、アップルはそれを逆手に取り、ネガティブに印象づけようとしている可能性もありそうだ。

Metaは10月12日午前2時(日本時間)に開催するイベントで、高級VRヘッドセット「Quest Pro(仮)」を正式発表する見通しだ。かたやアップルも2023年1月に初のAR/VRヘッドセットを発表することが有力視されており、早くも前哨戦が繰り広げられているのかもしれない。

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