中国の科学技術力の発展が注目されるが、近年は質の向上も顕著である。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が発行する『科学技術指標2022』によれば、被引用でトップ層に入る科学論文数(トップ10%補正論文数)の指標において、2000年ごろに世界13位であった中国は、18年から20年の期間平均で米国を抜いて世界1位となった。
科学技術大国から科学技術強国への飛躍を目指す中国
中国政府は06年に策定した「国家中長期科学技術発展計画綱要(06年~20年)」で国際的な科学論文の被引用件数を20年までに世界5位以内に引き上げることを目指していたが、目標を大幅に上回って最も影響力を有する論文を生み出す科学技術国家となった。
かかる科学技術力の発展を踏まえて習近平政権第2期(17年)ごろから、中国政府は自らを「科学技術大国」と公言するようになった。他方で興味深いことに、中国政府は自らのことを「科学技術強国」には至っていないとの認識を示している。
科学技術大国から科学技術強国への飛躍を目指す中国
中国政府は06年に策定した「国家中長期科学技術発展計画綱要(06年~20年)」で国際的な科学論文の被引用件数を20年までに世界5位以内に引き上げることを目指していたが、目標を大幅に上回って最も影響力を有する論文を生み出す科学技術国家となった。
かかる科学技術力の発展を踏まえて習近平政権第2期(17年)ごろから、中国政府は自らを「科学技術大国」と公言するようになった。他方で興味深いことに、中国政府は自らのことを「科学技術強国」には至っていないとの認識を示している。
習近平中国共産党総書記(国家主席)は「世界の科学技術強国を築き、中華民族の偉大な復興を達成するために大きな貢献をする」ことを科学者らに求め、建国100年を迎える21世紀半ばまでに中華民族の偉大な復興を実現するという大きなストーリーの中で、「科学技術強国」という目標を位置付ける。
中国が科学技術強国になるために何が必要なのであろうか。科学技術強国になるための総合的な指標として①科学技術開発費、②労働者人口に占める研究者の割合、③国際的に影響力のある科学論文数、④PCT(特許協力条約)国際出願制度に占める割合、⑤国際貿易における知的財産権使用料の収支、⑥ノーベル賞など主要な科学技術に関する賞取得数などがある。中国の研究者らによれば、これに中国を照らした場合、科学技術大国と自認する2017年でも、人口当たりの各指標や伝統的な科学賞の獲得数の点で世界の科学技術強国には至っていないという。
こうした認識の下で、習近平政権は科学技術強国に向けて更なる飛躍を目指す。21年には35年までの長期目標を策定した「第14次五カ年計画及び35年遠景目標綱要」で科学技術強国の建設という目標を掲げ、戦略的科学計画7分野(①次世代人工知能(AI)、②量子情報、③集積回路、④脳科学と類脳(脳模倣型人工知能)研究、⑤遺伝子と生物技術、⑥臨床医学と健康、⑦深宇宙・深地球・深海と極地探査)を指定した。今年10月中旬に控える第20回党大会でも、科学技術強国を実現する目標は堅持されることだろう。
習近平政権の危機感
科学技術大国としての立場を築いたものの、中国共産党指導部が科学技術強国への目標を掲げる際には、ある種の危機感がにじむ。習近平党総書記は今年4月の海南省視察中に「現在の世界は100年に一度の大転換期を迎えており、国際環境が複雑に交錯し、世界経済が低迷期に入り、グローバルサプライチェーン(供給網)が再構築され、不安定性と不確実性が増加している」と述べた。
そのうえで、「科学技術イノベーションは国際戦略競争の主戦場となっており、科学技術の攻略ポイントをめぐる競争はこれまでになく激烈である。我々は強い危機感を持ち、取り組みを十分にしなければならない」と呼びかけた。
習近平政権の危機感の背景には、国際情勢の不安定化が中国の科学技術強国への道のりを困難にさせていることがある。一つの要素は、中国に対する先進諸国からの技術的な締め付けが強化されていることである。
これまでの中国の科学技術力の向上は、主に日本や欧米の科学技術先進国との交流を通じた技術導入によって進められた。
だが、この技術導入が従来の貿易投資規制をすり抜ける不正な窃取方法で行われていたことや、既存の国際秩序に挑戦的な態度を示す中国の軍事力強化につながっているとの認識が、ここ数年で欧米諸国に急速に広まった。この結果、トランプ政権以降の米国は、一連の対中貿易投資規制を抜本的に強化して日本を含む民主主義先進諸国に同調を求めている。
また、米国との軍事的な緊張の高まりも習近平政権の危機感を駆り立てる。とりわけ今年に入ってロシアによるウクライナ侵攻が始まると、中国による台湾侵攻の現実性も広く議論されるようになり、米国を中心とした先進諸国は軍事費を急増させ、中国に対する軍事的警戒感を高めた。
習近平政権は、今世紀半ばまでに米軍並みの「世界一流の軍隊」の実現を掲げる。同時に彼らは、AIや量子情報など先端科学技術の軍事分野への応用が加速し、これが軍隊の装備・兵器・組織文化や戦争の形態を大きく変容させており、「新たな軍事革命」が生起していると見ている。
さらに、新興技術の軍事利用を基にした軍事力強化が米軍に対する人民解放軍の軍事的な劣勢を覆す鍵となるとの認識を持っている。しかし、上記の貿易投資規制の強化も相まって科学技術を利用した軍事的な強化を目指す環境も難しくなりつつある。
※記事の出典元はツイッターで確認できます⇒コチラ
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