【東方新報】「今、テレビは本当に格安。このテレビ、以前は899元(約1万8334円)だったけれど、今ならはほとんど半額」そう話す女性は、最近、愛用のアイパッド(iPad)の液晶画面を割ってしまった。修理しようと思ったら50元(約1019円)かかると言われた。彼女は修理する代わりに「小米科技(シャオミ、Xiaomi)」製の32インチのテレビを買った。

「テレビのほうがiPadより安いし、画面も大きいし」  

中国ではテレビの価格低迷が続いている。価格が下がった直接的な理由の一つは、昨年の下半期以来、製造コストの6割を占めるという液晶パネルの価格が下落したこと。世界的なインフレ、ウクライナ情勢などの影響で需要が減ったためだ。  
製造コストの低下に加え、メーカーは価格競争に乗り出した。結果として自分の首を絞めてしまったようだ。テレビは、今、過去最も安い水準だという。





 数年前なら、当時主流の43インチテレビは2000~3000元(約4万789円~6万1184円円)だった。ところ今、Eコマース大手「京東(JD.com)」で、小米の43インチの最新テレビが799元(約1万6295円)で買える。

 家電量販店では、「創維(Skyworth)」「海信集団(Hisense Group)」「TCL科技集団(TCL Technology)」など中国ブランドの大型テレビが目を引くが、価格は75インチで1000~2000元(約2万394円~4万789円)、85インチで、5000~6000元(約10万1974円~12万2368円)。1万元(約20万3948円)は下らなかった数年前には、想像できない安さだ。ある専門家は「液晶パネルはすでに多くの工場が減産しているため、価格は9月で底を打ち、上昇に転じると予測する。数か月先にはそれがテレビ本体の価格にも反映されるはずだと指摘する。

 だが、テレビの値段が下がった背景は、一時的な要因のみではない。

 家庭用テレビの市場はもはや拡大が見込めないのだ。あるデータによれば、テレビの年間の販売台数は2009年から伸び始め、2016年の5089万台がピーク。その後の数年間は4800万台前後で横ばいが続いたが、2020年は前年比9%減、21年は14%減で、4000万台の大台をった。21年には、100戸あたりのテレビ所有台数は121.8台。ほぼ飽和状態に達していると見られている。

 こうした中でメーカーによる価格競争が激化したわけだが、テレビの価格破壊を決定づけたのは、IT企業「楽視網」の参入だった。同社は2013年に、インターネットに接続可能な60インチのスマートテレビを、当時の同レベルのテレビの約半額で売り出した。楽視は元々、家電メーカーではない。通信に始まり、携帯電話向けの映像配信なども行っていた。楽視はそもそもテレビ受信機を売ってもうけるつもりはなく、そこに配信するゲームや動画などのソフトで利益を上げる戦略を採った。実際に楽視は「テレビを1台売れば400元(約8000円)の損をする。画面のサイズが大きくなればなるほど、損は大きい」と公言していたほどだ。

 同じ狙いで楽視に続き、本来なら「異業種」の映像配信サービスや携帯電話会社が次々と独自のテレビを発売するようになった。その結果が、今のテレビ格安時代につながったと言える。

 現代は、もはやテレビが家庭での唯一の娯楽であった時代ではない。SNSもあればネットショッピングもあるし、良質なドラマは映像配信サービスで見られる。家族全員どころか近所の人までもがテレビの前に集まった古の日々に後戻りができないように、人々の生活スタイルと興味の変化は止められないし、メーカーがテレビを作れば、飛ぶように売れた時代には戻れない。

 かといって、メーカーはお先真っ暗というばかりでもないだろう。家庭用の一般テレビの売り上げは確かに伸び悩んでいるが、一方で、高品質テレビや商業用の大型モニターは需要が増しているという。IT企業がテレビ製造に参入したように、家電メーカーも業界の垣根を越え、「テレビプラスアルファ」を目指すという手もある。いずれにせよ時代と共に変化していかなくてはなるまい。その点では、「テレビ」は今もきちんと時代を映しているのである。

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