米国のネバダ州ラスベガスでは8日まで、世界最大のテクノロジショーケース「CES 2023」が行なわれた。かつては家電ショーだった同展示会だが、近年はエレクトロニクスを中心にコンシューマ向けのさまざまな技術を披露する場となっている。

 映像製品に関連する領域では、LGディスプレイがテレビ向け第3世代有機EL「METAテクノロジー」を発表。すでにパナソニックとLGエレクトロニクスが2023年向けの有機ELテレビでの採用を発表しており、今後も採用メーカーが相次ぐとみられる。
micro lenz array LG OLEDかつては“夢のディスプレイ”とも呼ばれた有機ELテレビは、LGエレクトロニクスとサムスンが2013年に韓国市場で初めて投入。しかしサムスンは歩留向上が見込めず、ほとんど製品を出荷できずに撤退する。

 LGエレクトロニクスが採用したLGディスプレイのパネルは、輝度の不足を白画素で補う方式で生産に苦労しながらも市場に踏みとどまった。白画素の追加は画質面では理想とは言えないが、それでも液晶に比べての長所は明白。この10年で改良が進み、今や4K/HDRのディスプレイとして費用対効果が極めて高い選択肢になった。

昨年にはサムスンが白画素を使わないRGB画素構成と量子ドットで色再現域を広げた「QD-OLED」を用いた製品で有機ELテレビを再投入。国内メーカでは、ソニーがこのQD-OLEDパネルを採用し、高価ではあるものの、まさにハイエンドと言える画質になっている。

 METAテクノロジーを採用したLGディスプレイの新パネルは、RGBW構成の画素を維持するが、電力効率を44%改善し、最大輝度を60%上昇させたと謳う。

そして(ここが重要なポイントだが)、第2世代OLEDパネルを置きかえられるコスト競争力があることに加え、パネル駆動や画質調整面のノウハウも引き継げ、同社製パネルを採用する大多数の既存有機ELテレビの画質が向上する可能性を持つ。
“光の効率を究極に高め”て実用域での画質を大幅向上

METAテクノロジーは、従来のOLEDパネルに対し、マイクロレンズアレイ(MLA)のレイヤを追加するものだ。マイクロレンズとは目に見えないほど小さい微細なレンズだが、METAでは微細なレンズを“ミクロン”レベルで配列する。

77型4Kパネルの場合、配置されるマイクロレンズは424億個に達するという。1画素あたりはおよそ5,117個で、これをOLEDパネルのエミッションレイヤ(光を放出する回路層)の上に形成し、パネルの内部構造で失われる光をほぼゼロにする。

 これによる利点は二つあるが、派生してさまざまな画質面での優位性が生まれる。

まず当然ながらピーク輝度が高まるが、METAテクノロジーを採用する第3世代パネルはピーク輝度が2,100nitsに達し、HDR映像のリファレンスとして、1つの目標とされてきた2,000nitsを超える表現が可能となる。HDR時代になって、初めてOLEDで映像規格に準拠したピーク輝度をリニアに表現できることになる。

またRGB画素を主体に表現できる輝度領域が広がることで、映像の主体となる輝度範囲での色再現領域が広がる。従来同様、W画素が光る輝度では色再現域が狭くなるものの、実用域での画質が高まると考えていい。

さらに視野角も広がり、視聴位置ごとに色が変化する量が小さく抑えられる。

無論、理想を言うならばRGB画素構成で同等の電力効率と最大輝度を実現できることが望ましいだろう。しかし、コストは大きく上昇し、それはテレビの価格に影響する。

METAテクノロジーは、システム全体の設計や絵作りを変更することなく、そのまま基礎体力だけを大幅に底上げするため、今年年末までに順次登場してくると思われる各社有機ELテレビの能力を一様に高めてくれるはずだ。

 LGディスプレイの第3世代有機ELパネルは、多くの製品に組み込まれるだろうが、その核となる技術であるMETAは、いずれ他社パネルにも広がっていくことになるだろう。たとえば、今年は大きな変更が見込まれていないサムスンのQD-OLEDも、マイクロレンズアレイを採用すれば、輝度と電力効率の向上を果たせるだろう。

それまで不可能だった新しい技術も、一度ブレークスルーが生まれると、次々にライバルが同様の技術を実現できることは歴史が証明している。

ただ、METAテクノロジーを搭載した製品の展示は、一部に限られている。LGディスプレイは近隣のホテルでパネルを披露したが、それはパネルを購入する家電メーカー関係者や記者向けのもの。会場にも非公開の部屋での評価は行なわれているが、取引先向けに限られてた。

現時点で第3世代有機ELパネルの搭載を発表しているのは、LGエレクロトニクスが今年発売予定の4K解像度のG3シリーズ、そしてパナソニックのMZ2000シリーズ。パナソニックは明るいブースの中で、パソコン画面を投影。LGは一般会場での展示が行なわれていない。

すなわち、最終製品としての絵作りは、各メーカーがこれから行なっていくものということなのだろう。最終的にはほぼ全てのOEMが採用すると推察されるだけに、今後数カ月の動きを期待したいところだ。

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