OLED share 202301「いよいよ量産時期が間近に迫ってきた」。中国ディスプレー最大手の京東方科技集団(BOE)が開発を進める、ある技術の動向に業界関係者の注目が集まっている。
 
 技術の名は「LTPO(低温多結晶酸化物)」。ディスプレーを駆動するTFT(薄膜トランジスタ)に使われ、表示性能と低消費電力に優れた有機ELディスプレーを実現できる。 量産面でリードするのはサムスン電子やLGディスプレーなどの韓国勢。新型コロナウイルスの感染拡大で工場の稼働が停止し、品薄となっている米アップルのスマートフォンの上位モデル「iPhone14 Pro」シリーズに搭載されている最先端技術だ。

 BOEは、10年代後半から有機ELの開発に力を注いでおり、韓国2社を猛追する立場だ。17年に四川省成都市で有機ELの量産に踏み切った。21年には韓国勢に割り込む形で、悲願だったiPhone向けの有機ELの提供にもこぎ着けている。





 現在、アップルに対してLTPO技術を使った有機ELディスプレーのサンプルを提供しているもよう。正式に採用されれば、「歩留まり面での差はあるものの、韓国勢に技術面でほぼ追いつくことになる」と、英調査会社オムディアで中小型ディスプレーを担当する早瀬宏氏は指摘する。


中国は、10年代から液晶などのディスプレーを成長産業と位置付けて投資を加速してきた。韓国や日本企業からの技術者の引き抜きに加えて、地方政府は工場建設時の補助金など巨額の支援を実施。BOEを筆頭に数多くのディスプレーメーカーが台頭し、液晶だけでなく有機ELへの投資を拡大していった。21年における中国企業のシェアは、テレビなどの大型液晶で5割超、有機ELで2割弱を占めている。

数少ない成功モデルといえる中国のディスプレー産業だが、不安材料が過剰投資の懸念だ。

 BOEは22年10月末、本社を置く北京市内にVR(仮想現実)向けのディスプレー工場を新設すると発表した。投資額は290億元(約5900億円)で、25年の量産開始を計画する。同社は「VR関連産業のサプライチェーンは急速な発展を遂げている」と投資理由を説明する。

華星光電技術(CSOT)や恵科電子(HKC)といった中国企業も液晶を中心に投資拡大を急ぐ。オムディアが22年9月に公表した調査では、中国で20を超えるディスプレーの投資案件の検討が進んでいるという。

 「世界的にディスプレーはすでに供給過剰だ。足元での中国での投資計画は合理的に説明しづらい」と、オムディアで設備投資を担当するチャールズ・アニス氏は指摘する。別のディスプレー関係者は、「中国の地方政府にとっては技術的なハードルが高い半導体よりも製造技術が確立されているディスプレーの方が飛びつきやすいのかもしれない」とみる。

 BOEが22年7~9月期に最終損益が赤字に転落するなど、中国大手各社は収益性の低さに苦しんでいる。今後、さらなる過剰投資を繰り返して需給の悪化を招けば、中国企業が共倒れになる危険もある。

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