風力など再生可能エネルギーの蓄電用途に向く大型電池で、住友電気工業が米国市場の開拓に向けて新工場を北米に建設する。充放電を繰り返しても劣化しにくいタイプで、寿命は約20年とリチウムイオン電池の2倍になる。米国は政府や州レベルで再エネ導入を進めており、2035年には北米の蓄電池だけで1兆円超の市場が立ち上がる。現地生産で新市場を取り込み、ポスト・リチウムイオン電池の座を狙う。

井上治社長が日本経済新聞の取材に「米国は再エネ導入が進むカリフォルニア州を筆頭に、蓄電池の最大市場になる」とした上で、「現地生産で事業規模を拡大していく」と明らかにした。建設地は今後詰めるが、テキサス州やメキシコ中部アグアスカリエンテス州などを想定している。

 新工場で扱うのはレドックスフロー電池と呼ばれる大型の設置式蓄電池だ。タンクにためたレアメタル(希少金属)のバナジウムの液体を循環させる。電極とバナジウムが電子をやりとりして充放電する。電極を化学変化させるリチウムイオン電池と異なり、電極が劣化しにくい。耐久性は20〜30年と2倍程度。難燃性の材料を使っており、大型化しても安全性が高い利点がある。






住友電工は24年度までに工場の稼働を目指す。日本や現地の企業から主要部材を調達し、新工場で組み立てて電力会社などに納入する。大阪製作所(大阪市)と2カ所で生産する体制にする。蓄電池の生産能力は3倍程度になる見通しで、25年度ごろまでに年100億円の売り上げを目指す。

再エネは気候に左右されるため、出力が安定しない課題がある。電力系統に接続するには蓄電池を組み込むことが必要で、再エネの普及に比例して蓄電池の市場も拡大する。富士経済(東京・中央)は35年の定置型蓄電池の世界市場規模は21年比3.8倍の5兆4418億円となると予測する。なかでも北米は4.1倍の1.7兆円で、中国(1.1兆円)や欧州(7466億円)を上回る。

北米の市場規模が大きくなるのは米国で再エネへの電力転換の余地が大きいからだ。国際エネルギー機関(IEA)によると、現状の米国の電源構成における再エネの割合は21%と欧州各国や中国に比べて低い。そうした状況で、バイデン政権は35年までに電力部門の脱炭素化を公約に掲げ、洋上風力発電事業など再エネ導入を後押しする。米国の環境政策を先導するカリフォルニア州では、電力会社に対し一定規模以上の蓄電池の設置を義務付けている。

需要の急拡大が見込まれる大型の蓄電池だが、現在はパソコンやスマートフォン、電気自動車(EV)向けで実績のあるリチウムイオン電池を採用するのが主流だ。ただ、蓄電池に詳しい産業技術総合研究所の佐藤縁総括研究主幹は「(レアメタルを使う)リチウムイオン電池だけで将来の再エネ需要を全て賄うのは厳しいという見方は多い」と指摘する。

幅広い用途で採用実績のあるリチウムイオン電池だが、EVでは全固体電池の開発が進む。ポスト・リチウムイオン電池を巡る競争は用途ごとに激しくなっている。

再エネ向けでポスト・リチウムイオン電池に名乗りを上げたのが、01年に住友電工が世界で初めて実用化したレドックスフロー電池だ。小型化に不向きなため、EVなど移動向け製品で実用化するのは困難なものの、再エネの蓄電など大型向けでは耐久性や安全性の観点から競争力があると判断した。

導入コストは設備の容量などにより異なるものの、リチウムイオン電池の1.5倍程度になることが多い。ただ、レドックスフロー電池は電解液の量を増やすだけで容量を拡大できる。「大容量であれば、運転費用も含めてコストでリチウムイオン電池を逆転できる」(住友電工)という。

レドックスフロー電池の完成品を手掛けるメーカーは世界で数十社程度存在するが、納入実績では中国電池大手、大連融科儲能技術発展と住友電工が2強状態にある。大和証券の尾崎慎一郎アナリストは「需要拡大が確実なレドックスフロー電池は住友電工にとって潜在性が大きい事業だ」と分析する。

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