アップルと同社の製品を生産する台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)などの働きかけで先月実現したインド南部カルナタカ州における画期的な労働規制改革により、中国からの生産シフトに拍車がかかるとみられる。

事情を知る3人の関係者によると、アップルなどのロビー活動が功を奏して、カルナタカ州議会は先月、工場での勤務時間に関する規制を緩和する法案を可決した。これにより、現在アップルとフォックスコンの主要な生産拠点となっている中国と同じように、2交代制の生産がインドでも可能となった。改革の結果、同州の労働規制の柔軟性はインド国内で最高水準となった。中国に代わる生産拠点になるというインドの政策目標にプラスとなるはずだ。





カルナタカ州の労働改革は、新型コロナウイルスの感染拡大で世界的なサプライチェーンが長期間混乱したことで中国での生産への過度な依存を減らそうとしている企業を誘致するのが目的だ。

匿名を条件に取材に応じたインド政府関係者は「インドは次の世界的な生産の中心地になる」という。「他の国と比較すると、インドは労働量拡大の効率を大幅に高める必要がある」

ラジーブ・チャンドラセカール電子情報技術担当相は先週、アップルがカルナタカ州に建設を予定している300エーカーの新しい工場でスマートフォン「iPhone」が生産されると発表した。フォックスコンは、工場計画については明言していない。

ハイテク産業の集積地であるカルナタカ州の議会は、工場労働に関する州法を改正して、1日当たりの就業時間を9時間から12時間に拡大する法案を可決した。改正により、女性従業員の工場での深夜勤務も認められる。中国、台湾、ベトナムなどではエレクトロニクス製品の組み立て工場で働く労働者の大半が女性だが、インドではまだ少ない。新たな規制では、1週間の労働時間が計48時間を超過しないよう求めているが、3カ月間での最大残業時間が、75時間から145時間へと引き上げられた。

地元業界団体に加え、外国企業の意見を採用

前述の政府関係者によると、今回の法改正は、インドの業界団体に加え、フォックスコンとアップルを含む外国企業の意見を大いに取り入れたものになっているという。この件に関して、フォックスコンとアップルはコメントできないとしている。

フォックスコンの関係者は、この規制改革は「我々と顧客(アップル)がずっと求めてきたものだ」と語る。「この改革は、効率的な生産を大規模に行うためにはどうしても必要だった」

この関係者は、今年中国を抜いて世界最大の人口を持つ国になるインドは、もはやフォックスコンも無視できない有望市場だが、中国と比べると投資環境に大きな差があるという。

「(改正により)12時間の2交代制で24時間生産を行うことができるということで、我々が求める条件に近づいた」と話す。

中国依存の脱却目指す製造業を誘致

モディ政権は「メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)」をスローガンに、インドのサービス業に偏重した経済においてはまだ影の薄い製造業を発展させようとしている。

インド政府と南部を中心とした州政府は、生産における中国依存を脱却しようとしている外国の製造業を誘致するために、エレクトロニクスやその他の産業への投資に対する優遇策を提供している。

現在南部のタミルナドゥ州でiPhoneを生産しているフォックスコンは、カルナタカ州および隣接するテランガナ州で生産する計画について語っているが、アップル製品の生産拡大についての詳細は明らかにしていない。しかし、鴻海経営トップの劉揚偉董事長(会長)が先週、テランガナ州のハイデラバードとカルナタカ州のベンガルールを訪れており、同社がインド事業を拡大しようとしているのは間違いなさそうだ。

鴻海のライバルである電子機器の受託製造サービス(EMS)、和碩聯合科技(ペガトロン)や緯創資通(ウィストロン)も、インドでiPhoneを生産している。