Stock Jdi LG Boe韓国パネル大手がノートパソコンやタブレット端末用の有機ELパネルを増産する。サムスン電子とLGディスプレー(LGD)が数千億円を投じて既存工場に専用ラインを整備する。米アップルが有機ELの採用を拡大するためだ。中国企業の追い上げを受け、中国勢がまだ本腰を入れていない中型の有機EL市場に活路を見いだす。

 サムスンはディスプレー部門の主力拠点、湯井(タンジョン)キャンパスの既存製造棟に4兆1000億ウォン(約4100億円)を投じて有機ELパネルの生産ラインを整備する。液晶事業の撤退とともに生産設備を入れ替えて2026年の量産開始を目指す。

今回の投資でサムスンは有機ELで初めて「8.6世代」と呼ぶ2620×2200ミリメートルの基板サイズを採用する。ノートパソコン用の中型パネルについて年間1000万枚規模の生産量を確保する計画だ。





サムスンは有機ELパネルを自社のスマートフォンのほか、アップルなどに供給しており、スマホ用では7割程度のシェアを握る。これまでは「6世代」と呼ぶ1850×1500ミリメートルのガラス基板で生産しており、有機ELとして世界最先端の製造方式で量産する。単純計算で生産効率は2倍以上に高まる。

パネルはガラス基板に電子回路を形成し切り分けて生産される。基板サイズは大きければ大きいほど1枚から生み出すパネル枚数が増える一方、生産技術が難しく歩留まり(良品率)が下がる傾向にある。いかに効率的に良品を安定生産できるかを各社が競ってきた経緯がある。

有機EL最大手のサムスンが次世代製造技術の採用を表明することで、キヤノンやニコン、東京エレクトロンなど日本が得意なディスプレー製造装置にも技術革新を促す効果がある。

LGDも主力拠点の坡州(パジュ)工場で中型有機ELパネル用の生産ラインを整備中だ。3兆3000億ウォン(約3300億円)を投じて「6世代」の生産ラインを構築する。技術力やコスト面でサムスンのような次世代方式は難しいと判断したもようだ。

韓国パネル2社が中型の有機ELパネルに注力するのは、ノートパソコンやタブレット端末で、液晶から有機ELへの切り替えが進んでいるためだ。両社の主要顧客であるアップルがタブレット端末「iPad」の24年モデルに有機ELパネルを採用し、将来的にノートパソコン「MacBook」にも広げる見通し。高精細な映像を楽しみたいという需要に応えるために、中国レノボ・グループや米デル、台湾華碩電脳(エイスース)などもノートパソコンに有機ELの採用を進めている。

液晶から有機ELへの転換を背景とした韓国2社の攻めの投資――。そんなふうにも見えるが、実態は中国勢の攻勢を背景とした「追い込まれた投資」という側面が強い。

液晶では既に中国の京東方科技集団(BOE)が世界シェア首位に立ち、中国勢が日本と韓国、台湾企業に事業縮小を迫る。そして今、有機ELでもBOEのほか、維信諾顕示技術(ビジョノックス)や和輝光電(エバーディスプレー)が地方政府の補助金を受けて生産設備を拡張。有機ELのシェアは依然として韓国2社で計8割を占めるものの、中国勢はスマホ用でじわりとシェアを高めている。

アップルと自社のスマホ用に大量の有機ELパネルを供給し安定収益を得るサムスンに比べて、LGDは固定客向けの供給が少なく収益が安定しない。23年1~3月期の連結営業損益は、パネル市況の低迷を受けて1兆980億ウォンの赤字と四半期ベースで過去最大の赤字だった。

4四半期連続の赤字に、韓国の主要格付け機関3社はLGDの信用等級を引き下げた。資金調達コストも大きく、LGDはLG電子から1兆ウォンを借り入れて中型有機ELパネルの投資を進めるほどに追い込まれているのが現実だ。

中国勢が不得手でまだ本腰を入れていない中型の有機EL市場は、パネルの「最後の成長市場」とされる。もっとも、世界で年間13億台が出荷されるスマホに対し、タブレット端末は同1億5000万台程度にとどまり、パネル市場も小さい。

ディスプレー産業は1990年代に日本勢が隆盛を極めたものの、00年代に韓国・台湾勢が急速に台頭した。10年代後半には中国勢が技術を蓄積し始め、20年代に韓国・台湾勢が追い込まれる事態に陥っている。性能・コストの両面で液晶や有機ELに置き換わる未来のディスプレーが見えないことも業界の閉塞感を増幅する。

今年3月にはパナソニックとソニーの有機EL技術を持ち寄ったJOLEDが経営破綻した。日立製作所と東芝、ソニーの液晶部門を統合したジャパンディスプレイ(JDI)は23年3月期まで9期連続の最終赤字となる見通しだ。

日中韓のパネル産業の盛衰は株価に反映されている。日本勢はコスト競争力を失い、JDIは14年の上場後に一度も公募価格を上回らず低迷。LGDも振るわない。一方でBOEは業績拡大とともに株価は堅調だ。

4月26日のLGDのオンライン決算説明会で、同社幹部は「受注型ビジネスを増やして事業安定性を高める」と話した。その言葉は、6年前のJDIのテコ入れ策と一言一句変わらない。

日本パネル産業の惨状を、韓国勢も将来たどることになるのか。現時点で明快な打開策は見えていない。

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