Screenshot 2023-07-21 06.54.46東レは、マイクロLEDディスプレーの製造プロセスで、LEDチップを配線基板に接合するための微細な端子(バンプ)を形成するための接合材料を新たに開発した。これまでは低温低圧プロセスと微細加工を両立させるのが難しかったが、新材料では直径5μmと微細なバンプ形成が可能で、しかもプロセス温度や圧力も大きく低減した。これで、この次世代ディスプレーの製造に関するミッシングリンクが埋まり、市場で離陸する準備が整ったといえる。

 マイクロLEDディスプレーは、ディスプレーを構成する赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各画素の光源にLEDチップを用いた次世代ディスプレー。液晶ディスプレーと異なり自発光でコントラストが高く、低消費電力である。また、有機ELディスプレーに対しては、はるかに高輝度、長寿命で、性能上は究極のディスプレーになり得る。2014年には米Apple(アップル)がマイクロLEDのスタートアップである米LuxVue Technology(ラックスビューテクノロジー)を買収し、大きな話題になった。





東レなどが想定するマイクロLEDディスプレーの用途はまずはスマートウオッチを含む時計、次にAR(Augmented Reality、拡張現実感)グラスなどで、具体的なメーカーにも当たりはついているとする。マイクロLEDディスプレーが選ばれるポイントは輝度の高さと消費電力の低さだ。「現状のARグラスなどは電池駆動では2時間が限界」(東レ)。ディスプレーの競合技術は多いが、高輝度と低消費電力を両立させるにはマイクロLEDディスプレーしかないとする。さらにその先は、「まだどこが造るかなどは見えていないが、可能性としてはスマートフォンやテレビもあり得る。新しい産業を造れる可能性がある」(東レ)。

 ところが、マイクロLEDディスプレーが話題になって10年以上経つにもかかわらず、製品は非常に少ない。LEDチップの製造コストが高いうえに、そのチップの配線基板への実装に非常に時間がかかっていたからだ。10年前は、1辺が数十μmかそれ以下の微細なLEDチップを1個ずつ配線基板に移していたため、LEDチップを約2500万個用いる4Kディスプレーでは1枚のパネルの製造に数カ月かかるともいわれた。

 その後、LEDチップをまとめて転写するマストランスファー技術など、実装を高速化する技術や装置が開発され、小型ディスプレーでは実用化のメドが立ち始めた。Appleが、2023~2025年のどこかの時期に、同社の「Apple Watch」の新製品にマイクロLEDを採用するのではという噂も流れ始めている。

 ただし、これまでのマストランスファー技術では4Kディスプレー1枚の製造には約5日かかる計算で、量産性や製造コストに大きな課題を抱えていた。2022年には韓国Samsung Electronics(サムスン電子)がマイクロLEDテレビを発売したが、89型で8万米ドル(1米ドル=140円で約1120万円)、109.2型で15万米ドル(同約2100万円)と、非常に高価である。

 そうした課題の多くは近い将来、解消に向かいそうだ。この1~2年、東レと東レエンジニアリングが、マイクロLEDディスプレーの製造上の課題を解決する製造プロセスやそのための装置や材料を次々に発表しているからである(図1)。それぞれの要素技術がブレークスルー級のインパクトがある。

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