Screenshot 2023-08-03 09.31.00電機大手シャープの経営が悪化し、日台の企業提携が試練を迎えている。台湾の親会社、鴻海精密工業はシャープに改善計画を要請し、成果が上がらなければ、経営陣の交代も求める構えだ。ただ、主因である業績不振の液晶パネル工場運営会社の完全子会社化について、日本の株主からは鴻海側の意向ではないかとの疑念の声も出ており、日台協力のシンボルともてはやされたシャープの経営の先行きは不透明感を増している。

シャープは2023年3月期の連結決算で、2608億円に上る巨額の最終赤字に陥った。最終赤字に転落したのは2017年以来6年ぶりで、赤字額は過去3番目の大きさとなる。最大の原因が、堺工場(大阪府堺市)を運営する子会社、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の生産設備の収益力を見直した結果、1884億円の減損損失を計上したことだった。





鴻海・郭台銘シャープ改革の真実
鴻海・郭台銘シャープ改革の真実

堺工場は2009年、シャープが4300億円を投じて建設した。だが、韓国や中国のメーカーとの価格競争が激化し、液晶パネルの市況が低迷。これに伴って、シャープは2012年3月期に3760億円の赤字を出し、経営危機が表面化した。鴻海の創業者で当時会長だった郭台銘氏はシャープ経営陣から請われ、個人資産管理会社を通じてSDPに660億円を出資して37.61%の株式を取得し、シャープと鴻海は堺工場を共同運営するようになった。

EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海の力を借りて危機脱出を図ったシャープだったが、2015年3月期には2223億円の赤字に転落し、再び崖っぷちに立たされた。ここで、またもシャープ救済に名乗りを上げたのが郭氏だった。

世界の産業界をリードしてきた日本企業に敬意を抱いていた郭氏は、シャープの技術力を高く評価し、SDPへの出資当時からシャープ本体にも出資したいとラブコールを送り続けてきた。台湾メディアは、郭氏のシャープへの入れ込みようを、恋愛に例えて「鴻夏恋」(夏はシャープの中国語名「夏普」のこと)と呼んだほどだ。

買収後に経営再建の司令塔として鴻海からシャープに送り込まれた郭氏の右腕の戴正呉氏は、自著『シャープ 再生への道』(日本経済新聞出版)で、郭氏が鴻海の社内会議で反対意見を説き伏せ、シャープ買収を主導した内幕を明かしている。結局、鴻海は日本の官民ファンド、産業革新機構との競争を制して2016年、シャープに3888億円を出資して66.07%の筆頭株主となり、シャープ買収を実現した。

シャープ 再生への道 [ 戴正呉 ]
シャープ 再生への道 [ 戴正呉 ]

戴氏はシャープの最高経営責任者(CEO)に就任して徹底的なコストカットを進め、2018年3月期に4年ぶりに最終黒字に転換するなど、経営を立て直した。2022年3月には、CEOを鴻海出身でシャープ常務執行役員に就いていた呉柏勲氏にバトンタッチし、退任した。

その経営体制移行と同時に持ち上がったのが、堺ディスプレイプロダクト(SDP)買収問題だった。郭氏は2019年までに、個人資産管理会社を通じて保有していたSDP株を投資会社に売却していた。シャープは2022年6月、投資会社と株式交換方式でSDP株を取得。自社の保有株と合わせ、完全子会社化した。株価から単純計算した取得額は約400億円となる。

この買い戻しについて、シャープ側は「パネルの安定調達のため」と説明したが、SDPは赤字が続いていたため、シャープの株価は下落した。2022年6月に開かれた株主総会では、「株主に対する裏切りではないのか」と批判の声が上がった。SDPの減損損失計上が巨額赤字を招いた翌2023年6月の株主総会でも、出席した株主から「プロセスが不明朗。いったい誰が責任を取るのか」などと追及が相次いだ。

SDPを完全子会社化したのは、ちょうど戴体制から呉体制への移行期だったため、これを決めた責任者は戴氏なのか、呉氏なのか、わかりにくくなっている。呉氏は「外部の専門家の意見を求めたうえで、取締役会で決議した」と釈明したものの、戴氏は「家業が回復したなら、父親はどれだけ反対があっても、子供を取り戻したいと思うものだ」と話しており、戴氏の意向に沿ったものだったとの見方が強い。

市場では「鴻海側が、業績が不安なSDPをシャープに押し付けた」とみる関係者もおり、こうした経緯に不信感を持つ株主も多いようだ。

シャープの業績不振は、親会社の足も引っ張っている。鴻海の2023年1~3月期決算は、シャープの赤字転落に伴って173億台湾ドル(約780億円)の営業外損失を計上したこともあって、最終利益は前年同期比56.5%減の128億台湾ドルにとどまり、2四半期連続の減益となった。呉氏はSDPについて、「収益重視の生産に徹し、カテゴリーシフトを図る」と述べ、投資は最小にとどめて、赤字縮小に取り組む考えを表明している。

鴻海トップの劉揚偉会長は2023年7月、会長になって初めてシャープ本社や事業所を訪れ、幹部らに3カ月以内にシャープの業績改善に向けた計画を提出するよう求めた。鴻海から派遣された台湾人とシャープ生え抜きを中心とした日本人で構成されているシャープ経営陣に対して、鴻海側は5月の決算記者会見で、「必要に応じて、交代を要求する」と通告するなど、両者の関係もかつてのような蜜月状態から様変わりしている。

その背景には、鴻海が今後、主力事業にしようと力を入れている電気自動車(EV)分野では、家電を軸とするシャープとの相乗効果はあまり見込めず、鴻海にとってシャープの重要性が薄れてきているという事情がある。シャープに強い思い入れがあった郭氏が、2020年の台湾・総統選出馬を目指すのを機に、鴻海の経営から離れたことも影響しているとみられる。

日本企業の技術力やブランド力と台湾企業の生産力や資金力を組み合わせた鴻海によるシャープ買収は、日台企業連携のモデルケースとして、双方の経済界で話題を呼んだ。シャープは直面していた経営危機から抜け出し、この買収が一定の実績を上げたことは否定できないところだが、さらなる高みに向かう前に失速しつつある現状は、日台協力の在り方を問い直す動きにもつながりかねない。


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