Screenshot 2023-11-07 09.07.56セイコーエプソンは北海道千歳市にある千歳事業所で、プロジェクター向け小型液晶パネルの増産を検討している。同事業所は新千歳空港に隣接し、海外拠点への輸送にメリットがある。冷涼な気候を生かして光熱費を低減。製造工程の見直しなどを進め、収益性の改善につなげている。

千歳事業所はプロジェクターから映像を投映する際に使う小型パネル「高温ポリシリコンTFT液晶(HTPS)」の主力工場だ。現在の生産量は12インチウエハー換算で月2000枚。エプソンが販売する年間約200万台のプロジェクターで使うHTPSのうち、7割近くを千歳から供給している。

「中長期の事業成長を見極め、状況に応じて5〜6年で生産能力を約20%引き上げたい」(広報担当)という。エプソンは海外に多くの製造拠点を持つ一方で技術の中核となる部品は国内で生産しており、HTPSもその一つだ。





エプソンのプロジェクター事業は、2021年3月期に営業利益率が1%まで低下した。新型コロナウイルス禍で在宅勤務が広がり、安価な大画面液晶モニターとの競争激化で逆風下に置かれたためだ。エプソンは24年3月期までを構造改革期間と位置づけ、事業の立て直しを図っている。

千歳事業所などの製造設備や工程を見直し、23年3月期のセグメント営業利益率は16.1%まで向上した。プロジェクター事業におけるHTPS生産コストは21年3月期から24年3月期の3年間で1割削減できる見通しだ。

千歳事業所があるのは千歳市内の工業団地「千歳美々ワールド」。同工業団地は最先端半導体の量産を目指すラピダスが工場建設を進めるなど注目が集まっている。05年から稼働し、敷地面積16万平方メートルの工場に230人の従業員が勤務している。

HTPSは半導体製造に使う装置を応用してつくるため、半導体と同じように円形のウエハーに大量のHTPSを焼き付ける。半導体と異なるのはウエハーの材質にシリコンではなく石英を使う点だ。VP製品部の上土居勧部長は「コンパクトで画素数の多い、明るいパネルをいかにつくるかが技術開発の肝だ」と語る。

千歳でHTPSを生産するメリットの一つがアクセス性の良さだ。千歳で製造したHTPSはフィリピンや中国にある拠点でプロジェクターに組み立てる。千歳美々ワールドは新千歳空港に隣接しており、海外へ空輸するのに便利な場所にある。

北海道の冷涼な気候も有利に働く。HTPSをつくるクリーンルーム内では装置から熱が出るため、室内温度を冷やすための冷房が欠かせない。千歳事業所では気温が低い冬の期間、冷たい外気で水温7度の冷水をつくり、冷房に活用している。年間で約62万キロワット時の電力を節約し、CO2排出量は306トン抑えた。

21年からは工場で使う電力を北海道ガスが提供する実質再生エネ100%の契約に切り替えた。化石燃料由来の電力でないことを示す「非化石証書」を活用し、CO2排出量をさらに減らしている。

千歳事業所から南東に数百メートル先で、ラピダスが最先端半導体の工場を建設中だ。ラピダス進出にあわせて北海道は半導体関連産業の集積を目指している。エプソンにとっても「材料の供給環境整備や装置メーカーの拠点進出などにつながるといい」(上土居氏)と期待は大きい。

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