LG Paju z012021年ごろまでの有機ELパネルの進化は結局のところ、機能とサイズの拡大だった。2013年に有機ELで55インチ(フルHD)のカーブド(曲面タイプ)を発売して以降、2014年に77インチ・4K、2016年に55インチ・フルHDの透明パネル、2017年に65インチ・4K、ガラス発音のCSO(Crystal Sound OLED、同社の技術名)、2018年に巻き取りタイプ、2019年に65インチ・8K、2020年に48インチ・4K、2021年に83インチ・4Kの開発といった具合に「世界初」を連発した。
ただそれは解像度、サイズ、機能、音、形態などに関わる部分で、画質に関するパネル技術は基本的に当初から変わっていない。

 ところが、事態が急変したきっかけがHDR(High Dynamic Range)だ。ハイダイナミックレンジの時代になり、高輝度が要求されても、自発光パネルではむやみに電流を投入するわけにはいかない。寿命の観点から、やむなくリミッターをかけ、低めの輝度に抑えざるを得なかった。その限界をいかに乗り越えるかが、有機ELパネルの新しい課題となった。輝度を上げると、自発光デバイスであるが故の信頼性、安定性、寿命の問題が立ちはだかる。そもそも発光部(バックライト)と信号表示部(液晶)が分かれ、技術的な対策の余地が大きい液晶パネルに対し、それらをすべて自ら行わなければならない自発光デバイスでは、高輝度化と寿命は二律背反の関係にあった。





 LGディスプレイは有機ELパネルの量産化の段階から、輝度問題に真剣に取り組んできた。白色OLEDを光源として、R/G/Bサブピクセルに、輝度向上のために白色(W)エリアを加えた「白色OLED+WRGBカラーフィルター(同社の名称は『カラーレイヤー』)構造」は当初から採用されている。

 では、HDRの進展に対応し、輝度の向上にいかに取り組むか。LGディスプレイの最高技術責任者(CTO)で副社長の尹洙榮氏はこう説明する。「2方向からアプローチしました。1つが寿命を長くすること、もう1つが効率を上げることです。この2つは矛盾します。寿命を長くすると効率は落ち、効率を高めると寿命が短くなる。だからこの矛盾にどう対処するかがポイントになります」(尹氏)

 十分な輝度を得るためには、単なるアイデアレベルからの発想ではなく、根本から見直さなければならない。鍵を握るのが材料だ。しかし、世界中で新材料を探索しても、適切なものはなかなか発見できない。

 ここで難しいのが、白色有機ELを構成する多層構造はそのままキープするという条件付きだったことだ。「白色」とはいうものの、そもそも世の中に「白色発光素子」は存在しない。白(W)はR/G/Bから加法混色によって作成しなければならない。加法混色とは、RとGとBのレイヤーを重ね、それらを発光させ、透過させ、R/G/Bの各色の光を合成し、白色が得られるという仕組みだ。このようにして白色をつくり、さらにWRGBのカラーフィルターで、フルカラーにするという面倒なやり方を採ったのは、これまで家庭用の大型有機ELパネルでは唯一、この方法しか製造できなかったからだ。連載の第2回で述べたように、ファインマスクによるRGB塗り分けでは、大量生産は不可能だ。では、多層構造は維持しなければならないという条件下で、果たして輝度向上は可能なのか。矛盾にどう挑戦するか。

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