近畿大学(近大)は1月19日、半導体材料のペロブスカイト量子ドットに対して、外部から磁力を加えることで「円偏光」を発生させ、その組成によってマルチカラーに色調を変えることに成功したことを発表した。
同成果は、近大 理工学部 応用化学科の今井喜胤教授、近大 理工学部 エネルギー物質学科の田中仙君准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、欧州15か国16の化学団体が参加するChemistry Europeが刊行する無機化学に関する全般を扱う学術誌「European Journal of Inorganic Chemistry」に掲載された。
同成果は、近大 理工学部 応用化学科の今井喜胤教授、近大 理工学部 エネルギー物質学科の田中仙君准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、欧州15か国16の化学団体が参加するChemistry Europeが刊行する無機化学に関する全般を扱う学術誌「European Journal of Inorganic Chemistry」に掲載された。
近年、3D表示用有機ELディスプレイなどで使用される新技術として、円偏光が注目されている。偏光とは特定の方向に振動する光のことをいい、その中でもらせん状に回転しているものを特に円偏光と呼ぶ。通常の発光体から発せられる光には、右回転と左回転の両方の円偏光が含まれているため、片方の円偏光だけを利用したい場合、従来はフィルターを用いて不必要な方の円偏光をカットする必要があった。しかしこの方法では、光量が半分になってしまうという問題が残されていたという。
そのため現在は、一方の円偏光を優先的に発することのできる発光体の開発が活発に行われているとのこと。現状の技術では、鏡面対称(左手と右手のような鏡像関係)の構造を持つキラル(光学活性)な発光体の対から、右回転または左回転の円偏光を発生させるのが一般的だという。なおキラルとは、物質が直線偏光の偏光面を回転させる性質(旋光性)があることをいい、反対に偏光面を回転させる性質がない場合はアキラル(光学不活性)といえる。
そうした中で、アキラルな分子を用いた場合でも円偏光を発生させる新しい手法の研究を進めているのが研究チームだ。そして今回の研究では、ペロブスカイト量子ドットを用いて、より安価にマルチカラーの円偏光を発生させることを目指したとする。
量子ドットとは、ナノメートルサイズの半導体材料で、高輝度かつ幅広い色域の光を発光することが特徴だ。テレビやLED照明など、さまざまな場面で活用されており、量子ドットの発見に関する研究はその貢献度から、2023年のノーベル化学賞を受賞するに至っている。ただし、これまでの量子ドットでは中毒性の高いカドミウム類が使われていることが懸念されていたことから、環境に配慮したペロブスカイト結晶構造の分子を用いたペロブスカイト量子ドットが採用された。
またペロブスカイトとは、セシウム、鉛、および塩素・臭素・ヨウ素の3種類のうちのいずれかからなる「CsPbX3」(ハロゲンアニオン(X)として、塩素・臭素・ヨウ素のいずれかが入る)結晶構造のこと。ペロブスカイト量子ドットは、室温で高い発光効率を示し、ハロゲンアニオンやその組み合わせ、量子ドットのサイズを変えることで発光波長を制御できるため、ディスプレイに応用すれば高輝度で広色域・高解像度の製品が実現できると期待されているほか、発光ダイオード用発光材料や太陽電池の材料として近年盛んに研究されている。
今回の研究では、高い発光効率を示すことが知られている5種類のアキラルなペロブスカイト量子ドットについて、外部から磁力を加えることで円偏光を発生させることに成功。また、磁力の方向を変えることで円偏光の回転方向を制御し、単一の発光体から右回転円偏光と左回転円偏光の両方を選択的に取り出すことにも成功したという。さらに、ペロブスカイト量子ドットの組成を変えることにより、円偏光発光の色調(波長)を青色から赤色へと300nm以上変えることに成功するなど、マルチカラー円偏光の発生にも成功したとする。
今回の研究成果は、室温かつ永久磁石による磁場下で、マルチカラーを容易に発生させることができるアキラルな量子ドット半導体から、円偏光の発生に成功したという点で優れているとのこと。研究チームは将来的に、高度な次世代セキュリティ認証技術の実用化や、3D表示用有機ELディスプレイなどの製造コスト削減などにつながることが期待されるとしている。
※記事の出典元はツイッターで確認できます⇒コチラ
※記事の出典元はツイッターで確認できます⇒コチラ
Comment
コメントする