webp227北里大学、茨城大学、青山学院大学(青学)の3者は2月22日、重量比わずか3%添加するだけで、有機ELデバイスなどに用いられる汎用発光性ポリマー「ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-コ-ベンゾチアジアゾール)」(F8BT)を円偏光発光性の色素材料に変えるキラル誘起添加剤を開発したことを共同で発表した。

同成果は、北里大 理学部の長谷川真士講師、同・真崎康博教授、茨城大大学院 理工学研究科(理学野)の西川浩之教授、青学 理工学部 化学・生命科学科の長谷川美貴教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。





電磁波の一種である光は、電場と磁場が空間を振動しながら伝播していく波動だ。その震動が特定の方向に制限される光は「偏光」といい、さらに同時に振動面が光の進行方向に沿って一定の速度で回転し、らせんを描くようにして進む場合は「円偏光」と呼ばれる。円偏光には左回りと右回りの2種類があり、技術的に応用するためにはどちらかを取り出す必要があるという。自然光には1:1の割合でどちらの円偏光も含まれているため、現在はフィルターを用いて選別する手法が一般的に用いられているが、その方法だと50%の光を捨てることになり、光量が半減してしまうことが課題となっていた。またフィルターを組み込むことにより、装置が複雑化するという課題もある。

それらの課題を取り除ける方法の1つが、目的とするどちらかの円偏光を優先的に発生させる円偏光発光色素。それを光源とすることで、直接円偏光を発生させる「有機発光ダイオード」の開発も可能となるという。

ただし、円偏光発光色素にも課題はある。片方の円偏光を発生させるには、右手型と左手型があるキラル分子のうち、片方のキラリティを持つ分子を用いる必要があるため、光学分割や不斉合成といった難易度の高いプロセスが避けられず、安価な大量合成が難しいことが予想される点だ。そこで研究チームは今回、その課題を解決するため、キラリティを持たない発光性ポリマーに、キラリティを誘起する添加剤を少量加える手法で、汎用的な発光性ポリマーを円偏光発光色素に変える手法の開発を進めたという。

研究チームによると、発光性ポリマーとキラル誘起添加剤の組み合わせで、ポリマーにキラリティが誘起されるメカニズムは実はまだよくわかっていないとのこと。また、ドープ率や発生する左右の円偏光度(円偏光の偏りの割合)などに課題が残されており、優れた材料を開発する方法論を模索する段階にあるという。

そこで今回の研究では、キラル誘起添加剤として「[2.2]パラシクロファン」に連結したキラルな「放射状カルバゾール分子」が新しく開発された。複数の置換基が導入された[2.2]パラシクロファンは、ラセミ化しない安定なキラル骨格で、薄膜を形成する際に必要なアニーリング(熱処理)に耐えられるものの、効果的な化学修飾方法が確立されていなかった。しかし今回の研究により、化学種の誘導体「ボロキシン」をカップリング反応に用いることで、[2.2]パラシクロファンをベースとした新しい材料への効率的なアプローチが可能になることが見出され、それを利用することで新しい添加剤の開発に成功したとする。

同研究では、市販の発光性ポリマー(F8BT)に、開発された添加剤を重量比3%加え、スピンコートによって薄膜を作製。その後に熱処理を施したところ、ポリマー由来の強い円偏光発光を示すことが確認されたという。この時、円偏光発光を評価する指標である非対称性因子gCPL値は0.01であり、一般的なキラル有機化合物のgCPLよりも10~50倍も高い値が示されたとしている。

開発された添加剤そのもののgCPL値は0.0005以下であること、F8BTはキラリティを持たない構造で円偏光発光を示さないことから、添加剤によってF8BTのキラリティが誘起されたことが明らかにされた。今回開発された化合物は少量でもキラル誘起添加剤として機能することが特徴だ。そのため、従来の片方のキラリティを持つ分子を利用した円偏光発光よりも低コストでの製造が可能となるとする。

今回のキラル誘起添加剤を用いれば、汎用的なポリマーを円偏光発光色素にすることが可能だ。つまり、3次元表示用有機ELディスプレイなどに利用可能な発光材料の可能性が大きく広がるという。研究チームは今回の成果により、円偏光発光材料の製造コストを抑えることができ、円偏光発光デバイスの開発が加速することが期待されるとしている。

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