次世代太陽光発電の本命として、ペロブスカイト太陽電池の開発競争が激しくなっている。日本発の革新技術として、日本勢が研究開発をリードしてきたが、ここ数年、中国勢の特許出願が急増し、ダントツの件数になっている。太陽電池関連の特許に詳しい、SK弁理士法人の奥野彰彦所長にペロブスカイト太陽電池に関する特許の動向について聞いた。
トップ10の半数が日本企業
――積水化学工業が2025年の製品化を公表するなど、日本企業主導によるペロブスカイト太陽電池の実用化に期待が集まっています。特許戦略という視点から見て、国内勢にどの程度の優位性があるのでしょうか?
奥野 ペロブスカイト太陽電池に関する特許出願の動向を見ると、2010年代は日本勢がトップでしたが、ここ数年、中国勢の出願件数が急増し、単年度では群を抜いています。ただ、過去からの累計件数で見ると、パナソニックや積水化学、東芝などトップ10のうち約半分が日本企業です。製品化にあたっては、蓄積した特許全体がモノを言うのでまだまだ日本勢は優位を保っています。
特に製品化でトップを走る積水化学は、保有する特許ポートフォリオもたいへんに強力なもので、他社は、積水化学の特許を避けて製品化するのは困難だと思われます。
ペロブスカイト太陽電池の製品化では、大きく2つの方向性があります。樹脂を基板(支持材)にしたフィルム型、ガラスを基板とし結晶シリコン太陽電池そしてペロブスカイト太陽電池を積層構造にするタンデム型です。いずれも有望だと思いますが、ここ数年、中国勢からの出願が増えているのは、ほとんどがタンデム型に関するものです。これは、フィルム型では、積水化学の特許をかいくぐることが難しいなか、タンデム型であれば、回避できる可能性があるとの読みがあるのかもしれません。
もちろん、これは今後の製品戦略を踏まえた選択でもあります。中国企業は、現在主流の結晶シリコン型太陽電池の世界市場で高いシェアを持っているので、今後、ガラス基板によるタンデム型でさらに高効率化し、既存のメガソーラー(大規模太陽光発電所)の太陽光パネルを置き換えていくという戦略にも合致します。
――ここ数年の中国勢のペロブスカイト太陽電池の特許出願の急増を見ると、製品化では自社の持つ大量の特許によって、日本企業とのクロスライセンス(特許の許諾を互いに認め合うこと)に持ち込もうという意図も感じます。
奥野 もちろんそれはあります。そもそも新技術を企業が製品化するまでの特許を巡る駆け引きで最も一般的な構図は、新技術の原型となった基本特許を大学など研究機関が押さえ、その技術(特許)を使って製品化するのに必要な「改良」や「量産」に関わる特許を企業が大量に出願し、最終的にはクロスライセンスによって特許使用料を軽減する、という形です。
ただ、当然ながら独創性の高い基本特許の効力はたいへん強いため、改良や量産に関する特許で相殺するのは簡単ではありません。大雑把に言って、基本特許1件に対して10件程度の有力な改良・量産関連の特許でなんとか相殺できる、というイメージです。
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