ドイツ 1200x-1
8月中旬の月曜日午後、ドイツ東部ツウィッカウにあるフォルクスワーゲン(VW)の電気自動車(EV)工場では従業員たちが硬い表情で働いていた。この工場では数百人の臨時従業員を解雇した後、夜勤を廃止していた。

  すでに不吉な予感が漂っていた。「正直なところ、ピリピリしたムードだった」と、VWの最新かつ最も効率的な工場の一つであるツウィッカウ工場で組み立てマネージャーを務めるロニー・ゼヘ氏は振り返った。

その3週間後、「ビートル」で知られるVWが、創業から87年の歴史で初めて工場を閉鎖する必要があるとの警告を発した。VWの工場で働く人々の未来がリスクにさらされている。

  VWによる衝撃的な発表の直前には、旧東ドイツ地域2州の選挙で極右勢力が大勝し、政治的な警鐘が鳴らされていた。







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  ドイツ最大のメーカーが工場閉鎖という引き返せない「ルビコン川」を渡ろうとしていることで、ドイツは工業力衰退という物語の中で最も象徴的な瞬間に直面している。

  VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。

1989年にベルリンの壁が崩壊すると、東西ドイツの統一が急がれたが、文化や経済面での格差は残った。

  1日に投開票された独東部2州の州議会選では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。東西の分断を浮き彫りにしているAfDや左派ポピュリストの勢いを止める力は、主流派の政党にはない。

  AfDの台頭は、ショルツ首相の連立政権にとって痛手となるだけではない。2025年の総選挙が迫る中で有権者が抱く不満の根本原因に向き合うよう迫っている。

  そうした中で多くを左右するのが、輸出主導の自動車製造大国から、半導体やEVバッテリーといった先端を行くクリーンエネルギー大国への速やかな移行という新たな経済の奇跡をドイツが成し遂げられるかどうかだ。

VWの失速は、時代に乗り遅れた企業を巡る警告であり、ドイツの成功モデルに潜んでいた陥穽(かんせい)だ。欧州経済の原動力となってきたドイツが、今後も欧州をリードし続けることができるのか疑問に疑問が投げかけられている。

  INGのマクロ部門責任者カルステン・ブルゼスキ氏は「VWの問題は誤った経営判断による自業自得という側面もあるが、VWはビジネス拠点としてのドイツが直面している難題の一例を突き付けている」と指摘。

  「ドイツは長年にわたり競争力を失い続けており、これがかつての独経済の至宝、VWにも影響を及ぼしている」と述べた。

  VWは昨年、東部の中規模都市ツウィッカウでフルEV24万7000台と、「ランボルギーニ」と「ベントレー」向けに1万2000の車体を生産したが、工場閉鎖の可能性が浮上する前から、コスト削減がすでに進んでいた。

  EVが依然として高価でEV購入を促す奨励策が縮小されつつあり、欧州でのEVの普及がなかなか進まないという状況にツウィッカウ工場は全面的にさらされている。