ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスの薫陶を受けたスパークス・グループ創業者の阿部修平氏。相場の大ベテランとして、8月以降の波乱相場をどう見ているのだろうか。個人投資家へのアドバイスと、今後の市場見通しを聞いた。――新しい少額投資非課税制度(NISA)を機に投資を始めた人が、初めて体験した波乱相場で不安を感じています。
長らくデフレ状態にあった日本経済が今、変わろうとしています。経済全体が金利のある世界に適応する過程で、株価が上がったり下がったりするのは極めてまっとうなことです。ネガティブに捉える必要はありません。世界で4番目の経済を有する国の株式市場が、売る人しかいなくなるという状態は、ずっとは続きません。おかしいことが起これば、それはいつか必ず是正されます。
この30年余り続いたデフレが異常だったのです。ここに1990年から2022年の30年間で、世界のGDP(国内総生産)に占める各国の割合がどう変化したかを示すグラフがあります。1990年は米国が26%、日本が14%、中国は2%でした。
ところが22年になると米国は25%を維持しますが、日本は4%にまで下がり、代わりに中国が18%を占めるようになります。この間の名目経済成長率の平均値は、米国は4.5%、中国は12.3%、日本はたったの0.9%です。
成長率1%以下の状態が30年も続くというのは、産業革命以降、他の国ではほとんど見たことがない。それほど異常なことが日本で起こっていたということです。
この30年は異常事態だった
――なぜ日本はほとんど成長しなかったのでしょうか。
1989年に「ベルリンの壁の崩壊」と「天安門事件」という歴史上、極めて重大なイベントが2つ起きています。これは東と西、すなわち社会主義と資本主義という、分断されていたものが1つになろうとする出来事でもありました。東西統合で、ドイツは東側の安い労働力を使って自動車を製造する戦略に出ます。それが欧州経済の下支えにつながりました。
一方、アジアでは何が起こったでしょうか。中国がグローバル市場に組み込まれたことで、世界のモノづくりの製造拠点が中国にシフトしていきました。グローバル化による熾烈な価格競争が日本を苦しめ、デフレを生んでしまったと私は見ています。
一方で日本企業は、デフレ経済の中で、低コストで高品質のものをつくるすべを身に付けた。だからデフレの厳しい環境で生き残った日本企業は、これから物価が上がっていく局面では面白くなってくると思います。
例えば、中国の経済成長率が、2000年代の2桁から1桁に落ち着いていくとしたら、今度はどの国が世界の経済を下支えしていくのでしょうか。世界全体で経済成長率は約4%あります。どこかの国が穴埋めをしなければこの数字は維持できません。
インドやインドネシアだという声もありますが、識字率など国民のリテラシーは、2桁成長を遂げた中国の頃と比べるとまだ低い。それに、かつての米国や日本など、中国に資本を投下し、技術移転を促してきたような動きも今のところ、目立って見当たらない。中国に取って代わるのは難しいと見ています。
むしろ、デフレ下でコスト削減・効率化のノウハウを蓄積してきた日本が今後、世界のモノづくりを再び担うのではないでしょうか。
――そのカギは何でしょう。
「高付加価値の製品」です。スマートフォン、パソコンなどは儲からなくなっている。世界は「スマホの次」を求めています。そこに日本の商機があります。
この30年、米国はIT(情報技術)産業がGDPをけん引してきました。グローバル化やデジタル化の進展で、経営戦略やソフト面は米国でやるが、製造拠点は中国などの海外に置く、といったスタイルが定着しました。「持たない」戦略を取ったわけですが、結果的に生産従事者、いわゆるモノづくりに携わる人の数が減りました。
「持つ」経営戦略が有効に
これからは「持つ」戦略が有効になる時代となるでしょう。地政学的リスクの台頭で、世界は分断の時代へと向かっています。あらゆるグローバル企業がサプライチェーン(供給網)の見直しを進める中、モノづくりを捨てなかった日本企業の真価が発揮されます。
――製造業が面白くなりますね。
100年以上のスパンで資産ごとのパフォーマンスを分析すると、間違いなく株式はナンバーワン。現預金(短期債)でもよかったのは、経済が30年間、異常だったからと考えた方がいい。ここで「投資は怖い」と投げ出すのはもったいないですよ。資産形成を目的としているなら、なおさらです。
※記事の出典元はツイッターで確認できます⇒コチラ
Comment
コメントする