辰巳工場 return-file-response日亜化学工業は、正極材料事業を受託加工型に転換する。市況変動の大きいニッケル、コバルト、リチウム、マンガンといったレアメタル材を顧客から支給してもらい、加工費を収益源とし事業構造の安定化を図る。すでに一部の製品では開始しており、ボリュームの大きい電気自動車(EV)用リチウムイオン2次電池(LiB)向けは全量を対象とする方針で、自動車メーカーを中心に交渉を進める。2030年に加工費のみで1000億円超の売上を確保する考えで、将来は売上高の8~9割が加工費となる事業体を確立する。

 「販売量に見合った収益を安定的に確保できる事業体にする」。小川裕義社長は徳島県阿南市の本社で開催した事業説明会でこう強調した。







24年1~6月期の正極材料事業は、売上高が前年同期比半減の524億円、営業損益は85億円の赤字となった。出荷量は増加するものの、レアメタル材の顧客支給割合の増加やレアメタル価格の下落が影響した。同社では来期について、出荷量の増加は継続するものの価格高騰時に購入したレアメタル材の在庫が残ることから事業業績の好転は26年になると見通す。

 日亜化学は、LiB用正極材料の世界主要メーカーで、車載向けを主とする三元系やニッケル系とともに、民生向けのコバルト系、定置用のオリビン系を供給する。EV用に加え、ハイブリッド車(HV)やプラグインHV、燃料電池車(FCV)用LiB向け正極材で豊富な採用実績を有する。

 車載向けLiB用正極材の主要材料はニッケル、コバルト、リチウム、マンガンといったレアメタルとなり、原材料費が価格の7割を占めるといわれる。いずれのレアメタルも市況商品で価格の振れは大きく、多くの正極材はそれらの変動にあわせ製品価格を修正している。一般的には月単位で実施しているが、製品価格の変化より在庫受払差が発生し収益に影響する。

 各正極材メーカーでは生産量が急増した21~22年時に、継続的な需要伸長の見通しのもと原材料を含めた在庫の積み増しを進めてきた。しかし、現在はニッケルで約3割、炭酸リチウムで7割以上という価格の落ち込みを受け各社とも厳しい状況になっている。

 日亜化学では、LiB市場は今後も堅調に推移し27年には23年比1・7倍の拡大を予測する。同社の出荷数量もEV電池向けの増加により27年には同2倍に増加すると見通す。伸長需要に対し、辰巳工場(徳島県阿南市)では累計で約1200億円を投じた増強を実施中。車載用を主とするハイニッケル系の高効率生産ラインは構築ずみで、25年には前駆体から焼成プロセスの一貫ラインが完了することから、27年にかけて生産能力を22年比2倍に高める。

 レアメタル材の顧客からの支給について、国際的に調達力を発揮できる自動車メーカーを中心に交渉を進める。正極材料事業の売上高がピークとなった22年、23年の内訳をみても、高騰した原材料費(変動費)が主な増収要因となったことから、小川社長は「市況の乱高下に影響を受けない体制を確立する」と話す。

 一方の自動車メーカーも、将来のEV生産を見据え電池用レアメタルの確保を進めている。ホンダは阪和興業と電池用レアメタルの調達に関するパートナーシップを締結。トヨタもグループの豊田通商などを通じて炭酸リチウムなどの多角的な調達ルート構築に取り組む。

 このような状況から自動車メーカーからも正極材やリチウム化合物を使用する電解質のメーカーにレアメタルの支給を提案しているようだ。しかし、関連メーカーでは独自の知見や利益構造が露呈してしまう恐れから否定的意見も少なくない。車載電池市場は、EV需要の伸長鈍化に地政学要因も絡み先行きの不透明感が増す。今後の日亜化学工業の舵取りが注目される。

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