家電の花形といわれたテレビは国内勢が海外勢との価格競争に敗れて久しい。10月に破産手続きを開始した船井電機(大阪府大東市)も、北米で一時トップシェアを誇ったが、中韓勢に屈した過去がある。そうした中、インターネットによる映画やドラマなどの動画配信サービスの普及で、視聴環境がスマートフォンへ移る新局面を迎えている。パナソニックホールディングスが米Amazon.comと動画配信対応のテレビを共同開発するなど、国内勢が反撃を仕掛けており、成否が注目される。
船井電機は北米で、米小売り大手のウォルマートと組んだ販売でシェアを伸ばし、2000年代に大きな成功を収めた。ところが、08年のリーマン・ショック以降、中国勢との価格競争などが要因で販売不振におちいった。
国内でも中国勢の存在感が高まっている。調査会社BCNによると、23年の薄型テレビの国内シェアは、東芝から中国ハイセンス傘下に移った「TVS REGZA」(川崎市)が1位で24.9%。中国勢ではハイセンス、TCLが日本市場に進出し、5分の1以上を中国勢が占めた。
こうした中、パナソニックは今年6月、主力のテレビシリーズ「ビエラ」にAmazonの動画視聴機器「Fire TV」を搭載した新製品を発売した。テレビ番組とネット動画の一覧表示、声による操作など、性能を大きく向上させている。
インプレス総合研究所が23年に実施した調査では、3カ月以内に有料動画配信サービスを利用した人の割合は31.7%。新型コロナウイルス禍を経て飛躍的に増加した。
さらにパナソニックは今年、約10年ぶりに北米市場にも再参入。配信対応の強化を足掛かりに海外でも普及を狙う。販売面では、ウォルマートと小売業界で激しく争うAmazonとの提携を強みにしたいところだ。
一方、ソニーは他社が黒の表現に優れる有機ELを重視する中、画面の明るさを生かした鮮やかな描写が特徴の「MiniLED」搭載の液晶テレビを最上位機種に据える決断を下した。同社ホームエンタテインメント商品企画部の足利裕二統括部長は「リビングで最高の映画体験をしてもらいたい」と話す。
同社によると、世界でテレビの大画面化が進み、24年4~6月の75インチ以上の出荷台数は前年同期比で1.2倍以上。液晶は有機ELと比べて大型化しやすく、価格も抑えられ、大画面の方が映画への没入感も高い。
ただ、中国の家電大手シャオミが2023年10月から日本に動画配信サービスの視聴に特化したチューナーレステレビを投入。今年はさらにラインアップを増やし、MiniLED搭載の55インチ液晶テレビが8万円台と、高性能と安さを両立する。
品質を追求するあまり価格競争に敗れた過去の二の舞いとならないよう、国内勢は周到な戦略構築を迫られている。
かつて世界席巻も中韓勢に敗れる
日本のテレビは2008年に世界シェア(販売額ベース)トップの43.4%を占めるほど世界を席巻していたが、13年までに中国、韓国勢に相次ぎ抜かれた。
凋落(ちょうらく)ぶりを象徴するのがシャープだ。同社は高品質な国産液晶パネルで「世界の亀山モデル」のブランドを確立。09年には堺市に計4300億円を投じて世界最大規模の生産能力の液晶パネル工場を建設したが、赤字がふくらみ16年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入る原因に。24年にはテレビ向けの大型液晶パネルの生産から撤退した。
パナソニックもかつては世界シェア10%以上を誇っていたが、やはり中国勢との価格競争激化でシェアは低下。画質で高い評価を受けたプラズマテレビも普及せず、14年に撤退した。
ソニーはテレビ事業が04年度から10年連続で赤字となったが、独自の映像処理技術などが顧客を引きつけ、収益を改善した。ただ、BCN総研のデータでは22年ごろから国内シェアが低下しており、価格面で優位に立つ中国勢との熾烈(しれつ)な競争が続いている。(桑島浩任)
新しい可能性や価値で差別化を 大内秀二郎・近畿大経営学部教授
中国や韓国メーカーとの競争に加え、動画配信サービスをスマートフォンやタブレットを使って見る人が増えたことで、日本のテレビ事業は非常に厳しい環境にある。特に低価格帯では海外勢に太刀打ちできなくなってきている。
高価格帯もそれほど強いとはいえない。すでにテレビのパネルは中国や韓国製が大部分を占め、昔ほど画質に差がなくなってきている。ハードでの差別化が難しい中で、消費者に訴求するにはテレビの新しい可能性や価値を示す必要がある。
その意味でパナソニックがAmazonと手を組んだことで可能性が広がったのではないか。パナソニックは冷蔵庫や洗濯機などの白物家電も持っているので、今後の連携が期待できる。
ソニーグループは映画やゲームなどのエンターテインメント事業を持っていることが、やはり強みになるだろう。ソニーのテレビならではのメリットを提案することが重要だ。
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