報告書には、品質不正に関与した現場の従業員らの赤裸々な証言が記されていた。
大手電機メーカーのパナソニック ホールディングス(HD)が、品質不正に揺れている。パナソニックHD傘下の電子部品事業会社、パナソニック インダストリー(パナインダ)は、11月1日に外部調査委員会の報告書を公表した。
不正が行われた製品数は約5200品番。今年7月に公表していた153品番から、33倍超へと膨らんだ。パナインダの国内外55拠点のうち、40拠点で何らかの不正行為が発覚。最も古いもので、1980年代から40年以上にわたって隠蔽されてきた。
パナインダが製造しているのは、家電やスマートフォン、PC、自動車など幅広い製品に使われている電子部品だ。影響は同社から電子部品や材料を購入した顧客4000社以上に広がっており、調査は今も続いている。
売上高約1兆円(2023年度)、従業員4万1000人を抱える大手電子部品メーカーであるパナインダは、パナソニックグループの中核事業会社の1つだ。日本のものづくりを支えてきたはずの同社に、いったい何が起きていたのか。
不正発覚のきっかけとなったのは、顧客からの指摘だった。ある電子部品の性能評価を顧客側で実施したところ、要求仕様に満たないことが判明。パナインダが調査を行うと、仕様に満たないことを把握しつつ、顧客には報告しないまま出荷した事実が発覚した。
これを受けてパナインダは、2023年10月に社内調査チームを設置。全社点検を開始した。2023年11月には、後述するアメリカ保険業者安全試験所(UL)の認証に関わる不正が発覚したことから、2024年1月以降は外部調査委員会を設置して、さらなる調査と原因分析を進めた。
認定された93件の不正のうち、調査報告書に掲載された主なものだけでも国内外の幅広い拠点で、長期間にわたってさまざまな製品に関する品質不正が行われていたことがわかる。
例えば三重県の四日市工場、南四日市工場では、1980年代から成形材料や封止材料の品質不正が続いていた。成形材料は自動車や家電の部品に用いられる樹脂材料で、封止材料は半導体素子を覆うための樹脂材料だ。
これらの製品は、アメリカの製品安全規格であるUL認証を受けたとして製造、出荷されていた。しかし実際には、UL認証を受けたときとは異なる材料の配合で製造したものが成形材料で60品番、封止材料で43品番見つかった。
このうち成形材料では15品番、封止材料では22品番がUL認証が求める難燃性のグレードに達していなかった。材料の配合を変えた場合には化学組成の分析や燃焼試験が必要となるが「開発期間を短縮させるため」(調査報告書)などの理由で、必要な試験や承認プロセスが省略されていた。
タイや中国の工場へも広がる
不正は連鎖していく。上記の不正が発覚しないようにするため、四日市工場や南四日市工場では認証機関による定期検査で不正を行っていたのだ。
具体的には、3カ月に1回実施されていたULの工場検査担当者による検査で、別品番の製品や、提出用の特別なサンプルを提出していた。UL側から指定された品番の難燃性が規格を満たしていない場合に、そのことを隠すためだった。
こうした不正の発覚を逃れるための手法は、海外の工場にも広がっていった。タイのアユタヤ工場では、プリント基板の材料となる銅張積層板について、UL認証に登録された配合とは異なる製品を製造・販売していた。
調査報告書によれば、2013年頃に当時の日本人駐在員の指示で、認証機関からの監査を通過するための特殊なサンプルの製造方法について、マニュアルが作成されている。
国内外の拠点間で定期試験をクリアするための特殊なサンプルの融通や、製造方法の共有を求めたケースも確認されており、不正を隠蔽するための不正は国境を越えてどんどん広がっていったことがわかる。
さらには、顧客に提出するデータの捏造・改ざんも行われ、子会社トップまでもが隠蔽に関与していくことになる。
パナソニック ホールディングス(HD)傘下の電子部品事業会社、パナソニック インダストリー(パナインダ)で発覚した品質不正問題。11月1日に公表した外部調査委員会の報告書によると、顧客の目をごまかすため、専用のプログラムを作成していた事例も発覚した。
パナインダの子会社、パナソニック スイッチングテクノロジーズ(パナST)では、顧客が製造工程を確認しに来た際に設定する「スペシャルモード」を用意していたというから呆れる。
専用プログラムで自動的に捏造・改ざん
2000年代以降にパナSTが製造していたリレー製品は、不良品の比率を表す工程不良率が5~10%と通常よりかなり高かった。顧客から改善を求められると「従業員の応対負荷が増大する」(調査報告書)可能性があったことから、工程不良率のデータを改ざんし、顧客に提出していた。
さらに顧客が製造工程を見学する際、不良品が数多く発生してデータを改ざんしていることが発覚しないように検査機器のプログラムを変更し、「スペシャルモード」と呼んでいた。2010年代後半以降は設定変更のためのマニュアルも作成され、担当者間で引き継がれていた。
不正のためのプログラムは、他の拠点でも発見されている。四日市、南四日市、上海(中国)、アユタヤ(タイ)各工場で確認された成形材料や封止材料のロット番号を改ざんする不正では、専用のプログラムを用いた検査結果の捏造や改ざんが行われていた。
不正の対象になった成形材料や封止材料では、顧客に出荷する前に製品の性質を測定する検査を実施することになっていた。しかし「人員や設備が不足していた」(調査報告書)ため一部検査が実施されておらず、実施した場合に検査結果が不合格でも出荷するという不正が横行していた。
こうした不正は2012年に品質情報システムが導入される以前はエクセルファイルを用いて手動で行われていたが、導入後はシステム上で自動的に行われていた。
極めつきは、パナインダの社長である坂本真治氏自らが関与した不正の存在だ。
1985年頃から2021年まで島根県の松江工場で製造されていた電子部品(フィルムキャパシタ)について、坂本社長は2022年1月に認証規格を充足しない製品が出荷されていた事実を知らされていた。にもかかわらず、顧客や認証機関に対して報告していなかった。
しかも坂本社長は、2022年に報告を受ける以前からこの製品の問題について知っていた可能性が高い。パナインダ社内では2009年2月にこの製品に関する企画会議が開催されており、その場でもこの製品についての問題が議題に上がっていた。
坂本社長はフィルムキャパシタビジネスユニット長(当時)という事業責任者の立場でこの会議に参加していた。
坂本社長は外部委員会の調査に対し「技術的な見地からは実際の仕様様態に照らして安全性に問題が生じることはない」と回答。報告しなかったのは「あえて認証機関や顧客に報告して市場に混乱を招くという選択肢をとる必要はないと考えた」からだと説明している。
本社に不正は伝わらなかった
外部調査委員会は今回の不正について「品質不正の存在が上位層を含めた広い範囲の従業員の間で共有され、長年にわたって継続されてきた」ことが他社の事案と比較した際の最大の特徴だと指摘している。
実際、不正事案の中には開発部門や品質部門など現場の管理職だけではなく、ビジネスユニット長や事業部長など、経営層でありながら本社に不正を報告せず、品質不正の是正や調査を指示しなかったケースがあった。
こうした点も踏まえ調査委員会は「経営者自身の品質保証に対する認識の甘さが今回の品質不正の遠因、背景になっていた」と結論づけている。その上で「より効果的な品質コンプライアンス体制の整備、運用に向けた不断の努力を期待したい」と報告書を結んでいる。
しかし、会社側の信頼回復に向けた取り組みには疑問符が付く状況が続いているのが実態だ。
パナインダは報告書の提出を受けて、11月1日に記者会見を開催した。だが、この会見は大阪の機械記者クラブで実施された。クラブに所属していないメディアには開催が通知されておらず、東洋経済も会見には参加できなかった。
パナインダは2024年2月に東京・虎ノ門に本社機能を移転している。その理由は「ステークホルダーとの“共創”を加速」(同社ウェブサイト)するためで、今年5月には新オフィスで坂本社長がメディアの合同取材に応えている。
月額報酬50%を4カ月分自主返納
東洋経済が入手した会見の録音データによれば、坂本社長は冒頭で「このたびは当社の品質不正によりましてお客様をはじめとするすべてのステークホルダーの皆様にご心配ご迷惑をおかけしたことを深くお詫びします」と発言している。
本当に「すべてのステークホルダー」に謝罪するのであれば、少なくとも開かれた場で記者会見を行うべきだったのではないか。過去に品質不正を起こした企業と比べても、情報開示に後ろ向きといわざるを得ない。
一連の不正を受けて坂本社長とパナソニックHDの楠見雄規社長は、それぞれ月額基本報酬の50%を4カ月間自主返納すると発表した。パナソニックHDは、グループ全体の不正調査も進めている。徹底した調査による全容解明が待たれる。
※記事の出典元はツイッターで確認できます⇒コチラ
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