ab0df05307e政府系ファンドのINCJ(旧産業革新機構)が3月末、約15年間の活動に終止符を打った。日本の産業競争力強化に向け、事業再編・統合や創業期のベンチャー企業への投資を行いリスクマネーの供給を担った。その活動には政府関与や民業圧迫などの懸念がつきまとった一方、出資を受けて再建や上場を果たした企業も少なくない。活動の軌跡が今後、検証されることになる。

旧産業革新投資機構は2009年に官民出資で設立された。資金の大半は国の財政投融資による拠出で、政府保証枠を含め総額約2兆円の投資能力を有する規模のファンドとして活動した。設立当時は08年のリーマン・ショックと不況による信用収縮が深刻化しており、民間機関からの資金供給が細っていた。社会的意義のある案件に対し民間が抱えきれないリスクを同機構が補完することで、産業界の新陳代謝促進やベンチャー企業が成長するための基盤としての役割が期待された。






ファンドの原資は大半が公的資金で構成される。当時の関係者は「国民の財産を毀損(きそん)しないよう念を押され、相当なプレッシャーと緊張感があった」と振り返る。投資活動では所管する経済産業省などの意向が働くことや民業圧迫への懸念がつきまとった。さまざまな課題や批判とも向き合いながら15年間で144件の投資を実行。法律に基づく活動期間を終え、政府系ファンドの役割は産業革新投資機構(JIC)に引き継がれる。

INCJの24年3月末時点の実績は総投資額1兆2963億円に対し、回収額は2兆2490億円に上る。ベンチャー、再編、海外投資の全分野で収益を得た。ただ利益の内訳をみると、その多くがルネサスエレクトロニクスへの投資によるものだ。

同社は三菱電機と日立製作所、NECの半導体事業が統合し10年に誕生したが、東日本大震災の工場被災などで経営難に陥った。INCJは13年にルネサスに約1400億円を出資し、株式の7割を取得。同社は大規模リストラなどで再建を果たし、INCJはルネサス株売却により計1兆2556億円の利益を得た。

INCJは日立製作所と東芝、ソニーの液晶事業を統合して設立したジャパンディスプレイ(JDI)、ソニーとパナソニックの有機ELパネル事業を統合したJOLED(23年に経営破綻)にもそれぞれ出資した。主要株主として経営支援や再建に取り組んだが、“日の丸再編”を成就させることはできなかった。16年には経営難に陥ったシャープのスポンサーに名乗りを上げた。シャープの液晶パネル事業をJDIと統合させる案など事業再編を軸とする再建を構想したが、鴻海との争奪戦に敗れたことで実現に至らなかった。

また、資金調達が難しいとされる創業期のベンチャー企業への投資を行い、過去に出資を受けたSansanやアストロスケールなどは株式上場を果たした。不況後の再建や海外勢の台頭など産業の変革期をインフラとして支えたINCJ。同社は6月以降に解散するが、果たした役割や課題は次代に受け継がれる。

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