
ディスプレーとしての課題が改善
製造コストが下がると同時に、いくつかの課題も大幅に改善した。少なかった画素数は1モジュールで4K(3840×2160画素)相当にまで増え、精細度は有機ELディスプレーにほぼ並んだ。低かった演色性も、カラーフィルターに量子ドット(QD)を加えることで大幅に高まった。さらには、同技術が生きる大きな市場「AR(拡張現実)グラス」が立ち上がる兆しが出ている。そこでの覇権を巡り、マイクロLEDと、これまでARグラス向けの有力ディスプレー技術だった有機EL(OLED)との激しい技術開発競争が始まっている。
透明ディスプレーで対決
2025年5月ディスプレー技術の国際学会兼展示会「SID Display Week 2025(DW25)」では、ARグラス以外の様々な用途でも、OLEDとマイクロLEDの対決が目立った。そうした用途の一つが透明ディスプレーである。
マイクロLEDの最大の特長は輝度が桁違いに高いことだ。すると、画素中の発光素子の面積を小さくでき、光を透過しやすくなる。これを生かして透明ディスプレーが以前から試作されてきたが、今回、台湾AU Optronics(友達光電、AUO)が出展した64型透明ディスプレーは特に映像が明るく、背景が透けていることが気にならない。
ちなみにこのディスプレーは、1枚が42型のディスプレーモジュールを2枚使って64型にしている。「42型のマイクロLEDディスプレーは1枚モノとしては世界最大級」(AUO)だという。これまでマイクロLEDでは、1枚の基板上に多くの画素を載せることが難しいため、大型ディスプレーは小さなタイル状のディスプレーモジュールを縦横につなぎ合わせるタイリング技術で造られていた。今回、1モジュールで42型、1K相当のディスプレーを作製できたことは、マイクロLEDを扱う技術がこなれてきたことを意味する。
一方、OLED技術を軸にディスプレーの開発を続けてきた韓国LG Display(LGD)は、OLEDでの透明ディスプレーを出展した。輝度はマイクロLEDほど高くはないが、落ち着いた映像で見やすい。透明ディスプレーを実現する技術の選択肢がマイクロLEDだけでないことをアピールした格好だ。
大型かつ高輝度ディスプレーで対決
両技術は、デジタルサイネージ向けの大型かつ高輝度のディスプレーでも対決した。マイクロLEDディスプレーでは、中国Vistar Displayが88型のディスプレーを出展した。ただし、タイリングで作製したという。輝度は2000cd/m2だ。室内向けデジタルサイネージの輝度は一般に1000cd/m2かそれ以下。2000cd/m2というのは屋外での利用を想定した明るさといえる。
SID Display Week 2025の展示会で最も大型のマイクロLEDディスプレーは台湾Innoluxが出展した101型ディスプレーだ。ただし、これも64枚のタイルで構成した。最大200型超のディスプレーも構成できるとする。ただし、輝度は明らかにしていない。
一方、LGDは63型4K(3840×2160画素)のOLEDディスプレーで、4000cd/m2というOLEDとしては非常に高い輝度を実現した。続く記事で後述するように、複数の発光層を重ねることで輝度を高めるタンデム技術を用い、しかも発光層をこれまでの3層から4層に増やして実現したという。
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