July 15, 2025
経営学の巨匠・ミンツバーグ氏が「世界は狂っているが、日本は正気」と断言する理由
“知の巨人”とも言われるヘンリー・ミンツバーグ氏は5月下旬、人材・組織コンサルティングを手掛けるジェイフィールが開いたクローズドなトークセッションの中でそう語った。
ミンツバーグ氏と言えば、『戦略サファリ』などの著書で知られ、コンサルティング会社で働く人の間で知らない人はいない経営学の巨匠だ。
ミンツバーグ氏は「気候変動、所得格差、戦争といったあらゆる危機に共通する原因は不均衡」とし、健全な社会を実現するために最も重要なのは「バランスを保つこと」だと強調した。
崩れる「健全な社会」のバランス
ミンツバーグ氏は、人が健全な社会生活を送るためには3つのニーズのバランスがとれていることが重要だと指摘する。
「1つは保護。警察や危害を加えられることを防ぐ規制による保護がなければ、私たちは健全に生きることができません。2つ目は消費。食料や住居など、私たちは生きるために最低限の消費をする必要があります。そして3つ目は所属。所属とは、私たちの人生においてほかの人々との関わりという意味です。家族やその他の人々との関わりです。
健康な人は、これらすべてのバランスがとれているのです」(ミンツバーグ氏)
保護は政府(公共)によって、消費は企業(民間)によって提供され、所属はミンツバーグ氏が言うところのプルーラル(多元的)セクター「コミュニティ」によってもたらされる。人と同じように、社会もこの3つのバランスを保つことが必要だが、近年は世界の至るところでバランスが崩れているという。
なぜアメリカ政府は尊敬されなくなったか
その代表例として、ミンツバーグ氏はアメリカに言及した。
「戦後のアメリカ、1970年代、1980年代を見ると、非常に高い税率、非常に寛大な福祉プログラム、そして素晴らしい経済発展がありました。
そこにロナルド・レーガンがやって来て、アメリカを変え、破壊しました。彼は税率を劇的に下げました。労働組合を潰し、国のバランスを崩し始めました。そして今日、皆さんはその結果を見ています。資本主義に偏り過ぎたせいで、アメリカは完全にバランスを崩してしまったのです」(ミンツバーグ氏)
バランスを崩す要因の一つとして、ミンツバーグ氏は技術の進歩を挙げる。特に工業化やIT・AIといったテクノロジーがコミュニティを弱体化させ、それによってしばしば政府が尊敬されなくなる傾向にあるという。
政府とコミュニティが弱くなると、企業が社会を支配するようになる。それが現代アメリカの大きな問題を引き起こしていると指摘する。
「アメリカの最高裁判所は2010年に贈収賄を合法化しました。それは、彼らが公選挙への民間献金の水門を開いたことを意味します。そしてそれ以来、アメリカの民主主義は地に落ち続けています。議会の全員が献金によって買収されています。
そのため、かなり穏健だったカマラ・ハリスでさえ、選挙キャンペーンの資金を得るためにウォール街に跪(ひざまづ)かなければなりませんでした。トランプだけではありません。アメリカという国全体の問題なのです」(ミンツバーグ氏)
日本の特殊な企業文化
その一方、ミンツバーグ氏は日本、特に日本の企業文化を高く評価する。
「日本は(アメリカと)違います。その理由の一つは、コミュニティシップが歴史的に企業に組み込まれているからです。ご存知のように、松下(パナソニック)やホンダなどの大企業は、人々を巻き込むコミュニティとして組織されています。あなたたちはそうした企業で働いていても、アメリカのように解雇されることを毎日死ぬほど恐れながら生活することはありません。
日本では多元的セクター(コミュニティ)と民間セクター(企業)がある種関連しており、ほかの多くの国とは異なっているのです」(ミンツバーグ氏)
そうした特殊な企業文化を育んできた日本が、この「狂った世界」でより良い経営戦略を獲得するには「カイゼン」のあり方を変える必要があると指摘する。
「カイゼンとは何かを考えてみてください。それは積み重なる小さな変化です。しかし、大きなポイントを見逃しています。小さな変化が大きな新しい戦略につながることがあるということです。言い換えれば、カイゼンは単に継続的な小さなカイゼンであるべきではありません。小さなカイゼンの中に大きなアイデアを見出すべきなのです」(ミンツバーグ氏)
つまり、ただ運用するのではなく、戦略的に取り組む「戦略的カイゼン」が必要なのだという。
IKEAを世界No.1にした「戦略的カイゼン」
その一例として、ミンツバーグ氏は家具業界を変えたIKEAのアイデアを挙げた。
「IKEAの家具はフラットパック、つまり分解された状態になっています。家で組み立てる分安く買えますし、IKEAにとってもコストを節約できる。みんな幸せです。そのアイデア(販売方法)は、家具業界を変えました。IKEAを世界最大の家具小売業者にしたのです」(ミンツバーグ氏)
このビジネスモデルは、たった1人の発想から生まれたという。
「ある従業員がテーブルを車に入れようとしたところ、入りませんでした。そこで彼は脚を外しました。大したことではありません。しかし、ここで記念すべき戦略的変化が起こりました。従業員が脚を外さなければならないなら、顧客も同じです。それは非常に些細なアイデアでした。しかし一人の人が脚を外して販売することを思いつき、それが家具業界全体を変えたのです。
戦略はそんなところから生まれるのです。人々がこのようなアイデアを思いつくことを許し、それを奨励し、そして耳を傾ける会社から生まれるのです」(ミンツバーグ氏)
理想的な北欧でさえ世界の不均衡で困窮する
理想は「バランスのとれた人々がバランスのとれた組織で働き、バランスのとれた社会・地球で暮らすこと」だ。ミンツバーグ氏は北欧ではかなり理想に近い状態にあるものの、世界の影響から免れることはできないと指摘する。
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