h2gU3-C9シャープは、新たなコーポレートスローガンとして、「ひとの願いの、半歩先。」を制定した。シャープが目指す今後の方向性に基づいて、すべてのステークホルダーに届ける「シャープならではの価値」を言葉として表現したという。これまでにも、「目の付けどころが、シャープでしょ。」、「Be Original.」などのコーポレートスローガンが話題を集めたシャープは、新たなコーポレートスローガンにどんな思いを込めたのか。そして、「半歩先」は、シャープを象徴する新たな言葉になるのだろうか。

シャープは、これまでにも何度か、コーボレートスローガンを変更してきた。

最も知られているのが、1990年~2009年までの約19年間に渡って使用した「目の付けどころが、シャープでしょ。」だろう。

最初は、シャープならでは、ユニークな商品を紹介する新聞広告のキャッチコピーとして開発されたものだったが、シャープの価値を表す言葉として、社内外に広く浸透。まさに同社の代名詞となった。

実際、この頃のシャープからは、目の付けどころがユニークな商品が相次いでいた。

液晶画面とビデオを一体化した「液晶ビューカム」、空気を洗浄するという新たな提案をした「プラズマクラスターイオン空気清浄機」、水の力で健康的な調理を行えるウォーターオーブン「ヘルシオ」、世界の亀山モデルに代表される独自の液晶技術を活用した液晶テレビ「AQUOS」のほか、カメラ内蔵携帯電話を世界で初めて発売し、「写メール」の文化を定着させたのもシャープだ。








シャープは、2010年~2012年には、「目指してる、未来が違う。」へと、コーポレートスローガンを変更。従来の概念にとらわれない「オンリーワン」という考えのもと、液晶パネル生産の堺工場の稼働にあわせて、液晶をはじめとした新たな基幹技術を柱に、人々の暮らしや世の中を、より良く変えていきたいという思いを込めて開発した言葉だった。

また、2016年から2025年9月までは、「Be Original.」を使用。シャープの経営信条である「誠意と創意」の精神を、「原点(オリジナル)」として受け継ぎ、独自の商品やサービスにより、お客様一人ひとりが自分らしさを実現できる「あなたのためのオリジナル」を創り続けることを訴求するものになった。鴻海グループ傘下での経営へと移行するなかで、シャープのオリジナル性を継承していく姿勢を訴求するものでもあった。

シャープによると、今回の「ひとの願いの、半歩先。」は、誠意をもって、人々の日常に向き合い、日々の困りごとや課題のなかから、「ひとの願い」を見出し、その願いに対して、創意をもってほんの少し先回りすることで、驚きと喜びをもたらす新たな体験を届けたいという思いを込めたという。

同社ブランド戦略推進部では、「今回のコーポレートスローガンの制定は、社長の沖津の強い思いによるものである」とした上で、「シャープは、2025年5月に7年ぶりに中期経営計画を発表した。そのなかで宣言したのが、創業者である早川徳次の精神を受け継ぐ『経営理念』や『経営信条』に立ち戻り、事業活動に取り組むことである。今回のコーポレートスローガンでは、創業の精神を誠実に実践し、人々の日常に新たな体験をもたらすという経営幹部の思いと、独創的なモノやサービスを通じて、新しい文化をつくる会社を目指すという決意を表現した」とする。

これまでのメッセージは、シャープの独創性を前面に打ち出したものであったが、今回のメッセージは、シャープ自らを変えて、新たな文化をつくるという意思を盛り込んだ点で、意味合いが大きく異なるというわけだ。

「社外に向けた発信だけでなく、社員に伝えることも意識した。経営信条である『誠意と創意』はシャープの社員であればわかっているというが、実践できているのか、解釈の仕方に差がないのかといった点では、改善する余地がある。経営理念と経営信条は、1973年に制定したもので、50年以上を経過し、希薄化している反省もある」と前置きし、「誠意をもって人々の日常に向き合い、日々の困りごとや課題のなかから、ひとの願いを見出し、その願いに対して、創意をもってほんの少し先回りすることで、驚きと喜びをもたらす新たな体験を届けたいという意味を込めた。シャープらしい価値をあらわす言葉であり、シャープが目指す方向性を踏まえたコーポレートスローガンになる」と位置づけている。
2024年6月に就任した沖津社長CEOは、就任以来、「シャープらしさを取り戻す」という発言を繰り返してきた。そして、「シャープらしさを取り戻すことが、私に課せられた一番のミッションである」とも語っている。

「シャープのDNAである『目の付けどころ』と『特長技術』、厳しいグローバル競争を勝ち抜くための「スピード」を一層強化する。これにより、シャープらしい新たな価値を次々と生み出し、新しい文化の創造を目指す」との姿勢を示す。

シャープの「新たな文化」が、「ひとの願いの、半歩先。」という言葉に凝縮されているというわけだ。

「ひとの願いの、半歩先。」という言葉を分解して、見てみよう。

「ひとの願い」には、「誠意をもって人々の日常に向き合い、日々の困りごとや課題のなかから、ひとの願いを見出す」ことを意味しているという。また、ひらがなの「ひと」という表記には、もっとやさしく、もっと深く、願いに寄り添いたい、という思いを込めているという。

また、「半歩先」には、ひとの願いに対して、創意をもって、ほんの少し先回りし、驚きと喜びをもたらす新たな体験を届けるという意味を込めた。

「新しい文化を見据えた未来へのベクトルを示し、遠すぎず、近すぎず、そっと寄り添える、ちょうどいい距離感、まだ言葉になっていない願いにも気づける距離感を表現した」という。

一歩先ではなく、半歩先とした点が、シャープのこだわりだ。

「社内からは、『半歩先』という言葉がシャープらしいという声が出ている。これまでの歴史でも、半歩先の製品によって成功をしてきた。スピード感を持つという意味での半歩、お客様とのちょうどいい距離としての半歩という意味があり、これが、この言葉を、社長の沖津が気に入っている理由のひとつである」という。

一歩先を行くと、サービスを提供するためのインフラが整っていなかったり、需要が創出されていなかったりといったことを背景に、売れ行きが伸びず、結果として、顧客の願いを実現できないといった事態に陥ることになる。だからこそ、一歩先ではなく、半歩先なのだという。

「半歩先」の価値を積み重ねていくことで、「なくてはならない会社」になりたいという意思も表現しているという。

そして、「、」や「。」といった句読点にもこだわりがある。

「、」は、願いと半歩先の間に静かな間をつくり、願いへの重みと、それに応える姿勢を丁寧に伝えることを示し、「。」は、「半歩先」を単なる言葉ではなく、シャープの企業姿勢として印象づけ、信頼感を高めることを狙ったという。

また、コーポレートスローガンに込めた思いを、わかりやすく伝えたのが「ステートメント」である。ここでは、特別な1日のためのモノづくりではなく、ふつうの1日のためのモノづくりをしていること、ちょっとだけ先回りして、意表をつくような商品やサービスを提供すること、小さな声でもちゃんと聞こえる距離にいること、といったシャープの新たな姿勢を示している。

今回のコーポレートスローガンの開発は、2024年2月にブランド戦略を検討するチームを立ち上げ、そのなかでスローガンの開発に向けた下地を作りながら、2025年4月から、正式にスローガンの制作に着手したという。

コーポレートスローガンの制作には、コピーライターである岡本欣也氏を起用した。

サントリーやホンダ、ミツカン、JT、京王電鉄などの大手企業向けキャンペーンを手がけてきた実績を持つ。

シャープの沖津雅浩社長CEOのほか、ブランド事業の推進において重要な役割を担っているCTOの種谷元隆氏、Co-COO 兼 スマートライフビジネスグループ長の菅原靖文氏、Co-COO 兼 スマートワークプレイスビジネスグループ長の小林繁氏が、岡本氏と面談し、シャープが目指す方向性や、シャープの歴史、事業内容などを共有し、理解を深めた上で、新たなコーポレートスローガンの開発に着手してもらったという。実際、岡本氏は、2025年6月に開催した事業説明会に参加したり、奈良県天理の歴史ホールも見学したりといったことも行ったという。

最終審議は、大阪府堺の本社に、すべての幹部が集まり、満場一致といえる状況で、このコーポレートスローガンを決定したという。

一方で、社内向けには、コーポレートスローガンの開発における過程や背景を、可能な限りオープンに紹介。社内イントラネットで、「スローガンができるまで」という連載記事を掲載し、コーポレートスローガンを新たに制定する狙いや、開発の経緯、最終審議での幹部の想いなどを動画で紹介したという。

「いくつかの候補案をあげて、社員からアンケートをとったり、ヒアリングをしたりといったことについても議論をしたが、意見の収束が難しいこと、また全社方針に関係することは役員が責任を持って最終判断を下すべきという結論から、社員アンケートは行わなかった」とし、「決定したコーポレートスローガンに対する社員の反応はおおむね良好である」という。

シャープは、今年の9月15日で、創業113年を迎えた。新たなコーポレートスローガンは、それに先立って公開し、TBS系列で放映される「東京2025世界陸上競技選手権大会」の関連番組および中継番組において、ドラム式洗濯乾燥機、スマートフォン、エネルギーソリューションのテレビコマーシャルを放映。その最後のカットで、新たなコーポレートスローガンを示す。これを皮切りに、幅広く展開していくことになるという。

シャープにとって、次の課題は、半歩先の製品やサービスを以下に創出できるかである。
「シャープの社内に、半歩先を行くというのは、どういうことなのかを自問自答しながら、モノづくりをする姿勢を浸透させたい。これはシャープにとってお客様との約束である。半歩先を行き企業であるイメージを作り上げたい」とする。

現時点で、半歩先と表現できる製品として、「アイススラリー冷蔵庫」をあげた。

アイススラリーは、微細な氷と液体が混合した流動性のあるフローズン状の飲料で、そのまま飲むことで、微細な氷が溶ける際に体内の熱を奪い、液体よりも早く身体のなかから冷やすことができる。市販のペットボトル飲料を、アイススラリー冷蔵庫に入れるだけで、飲めるアイススラリーを作ることが可能であり、手軽に実施できる暑熱対策として注目されている。

「猛暑のなか、いかに効率よく身体を冷やすことができるかは、人々の『願い』である。この願いの『半歩先』として、通常のペットボトルから、アイススラリーを創り出すという『新たな体験』を届けすることに価値がある」とする。

実は、いまから約20年前。シャープでは「半歩先」という言葉を使っていた経緯がある。

携帯電話事業を統括していた松本雅史常務取締役(当時)は、2004年7月の新製品発表のなかで、何度も繰り返して、「半歩先」という言葉を使った。

シャープは、2000年11月に、J-Phone(当時)向けに写メール対応のカメラ機能搭載製品を発売。2002年6月には、NTTドコモ向けに初のカメラ付き携帯電話を投入して、カメラ付き携帯電話では市場をリードした。これを、半歩先の製品投入が功を奏した例と位置づけていた。

当時の会見で、松本氏は、「現在、国内では5000万台のカメラ付き携帯電話が利用されているが、半歩早くカメラ付き機能を搭載することで、シャープは、この分野をリードできた。だが、それが一歩早いと、インフラが整っていなかったり、機能や仕様のバランスが悪くなり、逆に売れなくなったりする。半歩先に投入するのが最も強みを発揮できる」と語っていた。

ここに「半歩先」のモノづくりの極意があるといえそうだ。

果たして、シャープは、「半歩先」の製品、サービスを、どれだけ揃えることができるのか、また、それが世の中に受け入れられるのか。今後は、同社独自のCE-LLMをはじめとしたAIの活用なども、半歩先の実現には不可欠な技術となりそうだ。

人々の「暮らす」と「働く」といった領域の提案において、独創的な商品やサービスを創出しつづけ、新たなシャープの文化を創造することが、「半歩先」に込められたシャープのメッセージだ。

「半歩先」が、新たなシャープのイメージとして定着するのか。これからが注目される。

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