102025000000-1次世代有機EL材料を開発する九州大学発スタートアップ、Kyulux(キューラックス、福岡市)の社長に韓国・サムスン電子出身のリ・ジョンキル氏が10月に着任した。日本にも韓国にもゆかりを持つ異色の経歴と、グローバルの土俵で培った事業戦略や知見を生かし、日本発の有機EL材料技術で世界展開を狙う。

「技術の見せ方とグローバルの顧客との結びつきを手伝えばいける。日本が持つ技術を世界に広めたい、そう思って引き受けた」。リ社長は流ちょうな日本語でこう話す。慶応義塾大学大学院を卒業後、サムスン電子に就職した。会長直轄の部署でM&A(合併・買収)、映像ディスプレー事業部ではグローバルの販売を担当するなど、経営から販売戦略まで幅広く精通する。

キューラックスは九州大の安達千波矢教授らが2015年に設立し、有機ELの新素材の研究開発を手掛けている。株主にはLGやサムスンなどの大手パネルメーカーや複数の海外投資家などが名を連ねる。

安達教授は有機EL分子が熱エネルギーを受けて発光する「TADF材料」を12年に開発した。これと蛍光材料を組み合わせた新しい発光材料「ハイパーフルオレッセンス(HF)」の実用化に向けた研究開発を進めている。








TADF材料は製造工程でレアメタル(希少金属)を使わないため、従来材料に比べてコストを低減できる。さらに蛍光材料と組み合わせることで課題だった色純度の低さも克服できる。発光効率は蛍光材料の4倍と高く、表現できる色の幅は従来の有機EL材料に比べて約4割向上するという。

特に緑色の材料の評価が高く、採用を検討している韓国の大手パネルメーカーは「低コストながら寿命や色、発光効率などは現在採用している材料と同等の性能だ」とする。

3083010102025000000-1発光材料は現在、米プリンストン大学の技術をもとに創業した米ユニバーサル・ディスプレイ(UDC)が圧倒的なシェアを握っている。「商用の有機ELパネルのほぼすべての製品に採用されている」(同社)といい、足元の時価総額は約68億ドル(約1兆円)にのぼるなど市場の成長期待は大きい。

UDCの後を追うキューラックスは28年に商用化、同時期に上場も目指す。24年には日本曹達と資本業務提携を結び、量産体制の構築も進めている。リ社長は「研究開発(R&D)の会社からビジネスの会社に切り替えていく」と自身の役割について説明する。

キューラックスの監査役を務めるMCPアセット・マネジメントの山下慶祐マネージング・ディレクターは「グローバルの土俵で大手企業を相手にするには、日本人の心や精神を持つ海外人材が必要。韓国にも日本にもゆかりのあるリ社長は適任だ」と話す。リ社長の夫人は日本人であり、日本との縁は深い。

有機ELディスプレーの用途はスマートフォンやテレビから車載ディスプレー、仮想現実(VR)機器に至るまで広がり続けている。インドの調査会社、モルドールインテリジェンスは、30年の有機ELディスプレーの市場は25年比約1.9倍の1085億8000万ドルに拡大すると予測する。

かつて繰り広げられた有機ELディスプレー市場競争は韓国メーカーが制して市場シェアの8割を占めるまでになり、日本勢は苦汁をなめた。日本発の次世代有機EL材料技術ではリ社長が日韓の架け橋となり、韓国大手をライバルではなくパートナーとしてともに世界市場に挑むことになる。

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