
現代では他人への接触はセクハラだと注意される――。
人との距離が広がりつつある今であれば、作家・五木寛之さん(92)が聞いた女優・大原麗子さん(1946〜2009)の行動は、人々にどう受け止められるだろう。
五木さんが振り返る「熱い時代」には、「人々は接触し、肉体をぶっつけ合い、口から泡をとばして議論」していたという。
そんな時代に生きた女優は、五木さんにどんな顔を見せていたのか。
そんな時代に生きた女優は、五木さんにどんな顔を見せていたのか。
五木さんの最新刊『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』(新潮選書)から一部を抜粋・紹介する。
大原麗子は本当にいい女優さんだった。演技がうまいとか、ルックスが魅力的だとかいうことではない。小柄で声も低くて、決して華やかではない。
しかし、それでいて不思議な存在感を漂(ただよ)わせている女性だった。
私が新人作家だった頃、ある雑誌で彼女との対談の企画があった。少し早目に会場の店にいって待っていたが、一向に本人があらわれない。
こちらも生意気ざかりの頃だったから腹を立てて、帰ろうとしたところへ彼女はやってきた。時計を見ると、30分ちかくおくれている。
当然恐縮して謝るかと思ったが、一向にその気配がない。私の顔を見て、いきなり言った言葉が「やっぱり体温が伝わってくるって、いいね」だった。
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